序章【悲劇の夜】

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少女は初めて目にする魔物のあまりにも恐ろしい姿に目を見開き、恐怖に体を硬直させ悲鳴を上げることさえできずにいた。母親も目の前の状況に言葉を失い愕然とする。 魔物はそんな二人には目もくれず、抵抗する力すら残っていない父親の足を咥えると彼を外へと乱暴に引きずり出した。 その直後、凄まじい断末魔の叫び声が響くと同時にバリバリと何かを噛み砕く音が聞こえてくる。 母親は泣き叫ぶ少女を抱え、窓から必死に逃げようとする━━だが、窓を開けた彼女の目に飛び込んで来たのは想像を絶する光景であった。 辺り一面には村を囲むように押し寄せて来る無数の魔物の群れ。多くの家が崩壊し、逃げ惑う人々に魔物は容赦なく襲い掛かり補食していく。 地獄のような光景を目の当たりにした母親は絶句し、凍り付いたように動きが止まる。 少女は母親のことを泣きながら呼ぶが、彼女の耳には届いていないようだった。 その直後、一際巨大な魔物が家へと突進してきた。メキメキという音と共に木造の小さな家はいとも容易く崩れ落ちる。 その衝撃で少女は母親の腕の中から振り落とされ崩壊する瓦礫の下へと埋もれていった。
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