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「…………や、なんでもない。それより、今から行く地霊殿だったっけ。それって、あそこ?」
蓮は遠くの方に立つ洋館を示した。
アメリカに建っていそうな白塗りの館で、明治時代が並ぶこの地では異色に見えた。
「あぁ、そうさ。あそこには灼熱地獄があってね。それを管理しているのさ」
「………なんでそういうのが説明できるのに、幻想郷が何なのかを説明できないの?」
蓮のぼやきは聞き流し、再び地霊殿へと足を向けた。
もっとも、案外すぐに着いてしまい、初めて見る建物に蓮は感嘆の色を浮かべていた。
「ほぇー」
「ここが地霊殿さ。………あれは……?」
勇儀は地霊殿から出てくる人影を見つけた。
黒みの黄色い色の服に緑のスカート、黄色いリボンが巻き付いた黒い帽子を被った少女が、ふらふらと歩いている。
年は10代前半と幼く見えるが、彼女も妖怪なので年齢の数値は定かではない。
「また抜け出したのかい」
勇儀の声に蓮も顔を上げ、彼女の姿を認めた。
やがて顔がわかるくらいにまで近付いたところで、勇儀は彼女の肩を掴んだ。
「おい、こら。こいし、起きろ!」
掴んだ肩を前後に揺らすと、彼女は閉じていた目を開けた。
「………あれ、勇儀?」
「まったく……いいのかい、妹だからってフラフラ出歩いちゃって」
勇儀は腰に手を当てて、息をついた。
誰なのだろう、という気持ちが顔に出ていたらしく、勇儀は蓮の肩を叩いた。
「蓮、こいつはこいし。さとりの妹だよ」
「妹……? えっと、神谷蓮だ。よろしく」
「うん、よろしくね。私は古明地こいし、こいしって呼んでね!」
差し出した手を握り、蓮は握手に応じた。
その瞬間、こいしの表情が怪訝そうに変化した。
「…………お兄さん、妖怪?」
「さぁ……人間、だと思う」
肌触りが妖怪のと違うのだろうか。しかし、ぱっと見ても勇儀の肌も瑞々しく美しい、女性の肌のようにも見える。
どう思案しても蓮にはわからないことで、勇儀が身を乗り出す。
「それを確かめに地霊殿へ行くんだけど、さとりはどうしてる?」
「お姉ちゃんなら地霊殿の自室にいると思うよ。あ」
突然、こいしが蓮の頭上を見上げた。釣られて彼も見上げた瞬間、視界に広がったのは木の板でった。
顔面に激突したものは、桶だった。しかも、かなりの質量のある。
「だっ!?」
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