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そして勇儀は、それを操ることができる者を知っている。
この地底と地上を繋ぐ入り口の守護を勤めている、橋姫である。
「………どうしちまったというんだい、パルスィ!」
勇儀の言葉は、闇の奥にいる彼女には届いていなかあった。
水橋パルスィは闇の中にいる。さきほど微かにだが、姿を見ることができた。
その瞬間、この騒動は彼女が原因だと悟った。同時に、バカなとその考えを否定したかった。
パルスィは嫉妬心を操るが故に本人も嫉妬深いが、それを滅多に撒き散らすことはしなかった。
彼女に何かがあったのは明白だ。彼女を覆う闇が、それを証明している。
「パルスィに、何があったと………」
だが、返ってくる言葉はない。代わりといわんばかりに、闇が襲ってくるだけだ。
降りかかってくる黒い弾幕を避けて、勇儀は同じように弾幕で反撃を試みる。しかし、勇儀の攻撃は闇が食らいつくし、パルスィには届かなかった。
あの闇がある限り、勇儀の攻撃が通ることはない。
そもそも勇儀は弾幕よりも肉体言語の方が得意なのだ。総合的な強さならば勇儀が最強という説は成立するが、それは鬼という種族特有の身体能力があるからで、弾幕だけなら地霊殿のペットほどのものになってしまう。
あの闇に触れれば、嫉妬が燃え上がってしまう。自分にそんな感情があるかは定かではないから、自覚していないから嫉妬というのは厄介なのだ。
「………仕方ない、かな」
最後の手段は、勇儀の妖力で闇を吹き飛ばす。橋姫とは女神であり、彼女の神通力で闇が生まれているのなら吹き飛ばせるはずだ。
しかし、それには全霊で妖力を放たなければならない。そしてそれは、命を賭けることになるだろう。
そもそも神通力を妖力で吹き飛ばせるかも怪しい。神相手に一介の妖怪の力が通じるかもわからない。
それでもやるしかない。今出来るのは、勇儀しかいないのだ。
「全員、この場から離れな!」
勇儀の言葉と同時に、無事な妖怪は一斉に逃げ出した。嫉妬で暴れる者がいるが、仕方ない。
勇儀の瞳が剣呑を帯び、風もないのに着物が揺れる。男性がいたら赤面する場面だが、そんなことに目に止まる者はいない。
妖気が勇儀を包み、視線が闇を睨み付ける。その妖気に圧巻されてか、闇の動きが止まった。
その隙をつき、勇儀の全霊の妖力がパルスィに襲いかかった。光が激突し、闇が守るように展開する。
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