陽が差さぬ場所

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妖力と神通力がぶつかり、周囲のあらゆるものを吹き飛ばす。 神通力を妖力で吹き飛ばすという荒業が成功するかどうか怪しかったが、とりあえずは均衡することは出来た。 しかし、均衡に至っただけで、押し返すことができない。 このままでは押し負けて、勇儀は闇に飲まれてしまう。 「………くっ」 闇に飲まれた末路は、先ほど目にした妖怪達だ。あのような悲しい姿に、勇儀はなりたくなかった。 さらに気合いを入れて、神通力を封じ込めようとした時だった。 闇の中に見えるパルスィが嗤った。 それは闇に堕ちた笑みであり、彼女の笑みではない。 それを見て、勇儀の瞳が音を立てて凍りつく。 愕然となったその隙を、闇は見逃さなかった。 神通力は一気に爆発し、妖力を吹き飛ばされてしまう。 「しまっ……」 己れを呪い、もう一度妖力を高める。しかし、もはや手遅れであった。 迫りくる神通力を妖力で押し戻すなど不可能。ましてや、勇儀にそれほどの力は残っていない。 もうパルスィは戻らない。闇に堕ちてしまった神を呼び戻すには、高位の神の力が必要だ。 しかし、それを満たすほどの神は幻想郷には存在しない。 唯一望める神がいるが、たかが橋姫だけに現れるとは思わない。 「ここで、おしまいかい……」 友を救うことも出来ず、後悔に埋もれながら、勇儀は闇に落ちていく。 完全に勇儀の姿が、闇に飲まれた。 歓喜に満ちた咆哮が轟き、闇が旧都を飲み尽くさんと広がる。 刹那。 何かを感じた闇の広がりが、止まった。 それは闇に恐怖を抱かず、躊躇うことなく闇へと突っ込む。 そして、数瞬のうちに、勇儀を闇から引き上げた。 勇儀を引き上げた人影は、今だ建っている家の屋根に着地すると、彼女の肩を揺さぶる。 「おい、勇儀」 静かに呼び掛ける声が届いたのか、しばらく閉じていた目が震えた。 口の中にまで闇が入り込んでいたのか、噎せながら勇儀は上体を起こした。 「かはっ……その、声は………」 咳き込みながら瞳を開けた勇儀は、抱き抱える人物に驚愕した。 「れ、蓮!?」 「さっきとは立場が逆だな。勇儀姐さんよ」 凄みのある笑みを浮かべたまま、蓮は目を落とした。 「…………着崩れって、知ってる?」 「っ!」 途端に顔を赤くして、勇儀は蓮の頬をつねる。 「痛い痛い! だったら自分の格好を考慮しろよな」
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