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「あたしは何で、アンタがここにいるのかが気になるんだけど?」
「こいしにキスメを任せて来たんだ。嫌な予感がしたから」
着ているローブを押し付けて、蓮は闇を睨み付けた。
その中にいるパルスィに目を細めてから、勇儀に確認する。
「あの中に人がいるみたいだけど……」
「………あいつが橋姫。パルスィさ」
彼女はこんなことをする奴じゃなかった。そう嘯く勇儀に、蓮は一度も目を反らさず闇を見ていた。
勇儀の強さはかなりの者だと、すぐに理解出来た。赤鬼達でさえ恐縮するほどのものなのだから、彼女を凌駕する者はそうそういないだろう。
「姐さんでも敵わないのか?」
「あいつの闇に触れたら、嫉妬に煽られて正気を………」
そこまで言いかけて、勇儀は目を瞬く。
ゆっくりと、視線を救ってきた青年に向ける。
彼はその行動が理解していないようで、首を傾げている。
蓮は勇儀を救った。闇に埋もれたところを、腕を突っ込み、引き上げたのだ。
闇に触れている。なのに。
「………あんた、なんで平気なんだい?」
「さぁ……元人間だからじゃない?」
理由などいざ知らず、とはよく言ったものである。
闇とは心の問題である。それは人間も神も鬼も変わりはしない。
跳躍のみで二階建ての家の屋根に飛び乗ったのだから、元人間説は確かなのだろう。
だからといって、闇を煽られて影響を受けないのは妙である。
「………とりあえず、俺があれを引き留めるよ」
口元を緩めた蓮は、勇儀を一瞥した。
「あんたが?」
「姐さんはこの旧都に必要な存在なんだろ。こんなとこでくたばるわけにはいかないだろう?」
勇儀が大切にされているということは、数時間前にこの地に来た蓮でもわかった。すれ違う度に挨拶をされる妖怪達を見れば、信頼されていることがすぐにわかる。
「ばっ、よせ! あれは闇に堕ちたとしても橋姫、女神だぞ!?」
「まだ堕ちていないよ。あれはギリギリのところで踏み止まっている」
なんだって、と勇儀は瞠目してパルスィを見詰めた。
先ほどの笑みや感じられる神気は、完全に化生のものだった。
信じたくはないが、あれはパルスィではない。
「そんなバカな。あの子はもう……」
「なら、どうしてすぐに旧都を闇で覆い尽くさない?」
即座に言われた勇儀は、はっとなった。
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