陽が差さぬ場所

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彼女の力は甚大だ。神の位からすればさほどではないかもしれないが、この旧都では勇儀の次に強いと言われるほどである。 実際勇儀もそう思うし、パルスィもそれを認めている。 ならば、旧都を闇で覆うなど、簡単なことだ。旧都はそこまで広大なわけではないのだから。 「それをしないということは、まだ微かに理性が……パルスィの意識があるってことじゃない?」 「確かに……だとしても、どうやってパルシィを助けるのさ?」 「知らん」 間髪入れずに答えた蓮に、勇儀は思わず転倒しそうになった。 「俺の知り合いがそっち関係でね。知識は少しあるけど、行使する術は知らないんだ」 「じゃあ、どうするんだい?」 しばらく思案顔を浮かべていた蓮の耳に、闇の咆哮が轟いた。 「………勇儀姐さんはここに。俺があの子を止める」 「どうやって?」 「意識を無くせば、とりあえずは収まると思う」 「だから、方法は?」 再度尋ねる勇儀に、蓮は笑いながら右手を握りしめた。 「とりあえず、ぶん殴る」 言葉と同時に、蓮は屋根から飛び降りた。 海に飛び込んだように、闇の表面に波紋が広がる。 蓮は嫉妬の影響など受けないといわんばかりに、パルスィの眼前へと降り立つ。 そして、問答無用で殴り飛ばした。 「……………えぇー」 さすがの勇儀も、言葉を失った。救い出したことにより、能力に目覚めたのではないかと期待していた。 そうではなかったが。 「というか、遠慮なしだな……」 引きつった表情で、勇儀は蓮を見詰めた。 闇の中で、蓮はひたすら腕を振るっていた。 まるで水の中にいるように動きにくいが、戦えないわけではない。 不思議と呼吸困難になることはなく、長い間動くことができる。 しかし、やはり女の子を殴るということには抵抗がある。 少女虐待(しかも女神)を殴る趣味などはないが、やはり罪悪感というものが募ってしまう。 「がっ……」 一方的に殴られていたパルスィの瞳に、光が宿った。 「調子に乗るなよ、愚かな死人よ」 手首を闇に捕まれ、蓮の攻撃は止まった。 そして、彼女の膝が蓮の腹部に命中する。身体なくの字に曲がる彼を、お返しと言わんばかりに殴り付ける。 「死人なら死人らしく、黄泉の国へ渡ればいいものを」 「………俺だってそうしたかったよ」 痛みを耐えるよう、苦悶の表情を浮かべる蓮に、パルスィは首を締め付けた。
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