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神通力が輝く粒子となって散っていき、それは季節外れの雪月下のように思えた。
「なかなか雅だね。せっかくだから酒のつまみにしたいが……」
糸切れたように倒れている青年と女神を、放っておくわけにもいかない。
屋根から飛び降り、勇儀は二人に近付いた。
どちらも先ほどまで、壮絶な力を放っていた当人とは思えないほどに、穏やかな表情で倒れている。
さて、と勇儀は腕を組んだ。いくら勇儀でも、二人を一気に抱えるのは難しい。下手な運び方をすれば、パルスィがまた暴走する可能性がある。
「いるんだろう。風鬼」
虚空に呼び掛けると、風と共に風鬼が舞い降りた。
彼は勇儀よりも頭上の上空で、一連の様を見ていたのだ。
「蓮を運んでおくれ。あたしはパルスィを運ぶ」
風鬼は言葉ではなく、態度で反応した。腕を軽く一振りすると、風が蓮を包み込んだ。
「あぁ、あと護郎を呼んでおくれ。念のためパルシィを結界で封じ込めておく必要があるからね」
「…………護郎ので大丈夫か?」
相手は神だ。たかが一妖怪の張った結界など、すぐに破られてしまうだろう。
「この地底に、あいつ以外で結界術を使える奴はいない。本当なら博麗の巫女に頼みたいとこだけど、あいつはがめついからねぇ」
「ならば、もう一人の巫女に頼んでみてはどうだ?」
「もう一人って……萃香の言っていた妖怪の山の?」
こくりと、風鬼が頷いた。つい最近、妖怪の山の頂きに守矢神社という社が現れた。
そこにも、守矢の巫女がいるという。
「そう、だね……なら、青鬼に頼んでおくれ」
こくりと頷き踵を返す風鬼に、勇儀はふと目を細めた。
「今日は随分と、喋るんだね」
「………どういう意味だ?」
「何でもないよ」
足を止めて顧みる風鬼の瞳は、剣呑に煌めいていた。
地底に住む鬼の中で最強なのは勇儀で、その次が風鬼だ。
それは実力的な意味合いだけでなく、彼女に次ぐ妖力を持つこと。
それと勇儀に唯一反論できる性格からであった。
「呼び止めて悪かったね。蓮を頼むよ」
風鬼はしばらく勇儀を見つめていたが、やがて蓮と共に地霊殿へと向かって行った。
遠退いていく風鬼を見届け、勇儀は嘆息して倒れる女神を一瞥した。
ふと、彼女が何かを掴んでいる。
それを拾い上げてみると、綺麗な首飾りであった。
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