陽が差さぬ場所

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照らしつける太陽の光が、いつも以上に鬱陶しかった。 その日の気温は時期相応の数値だったはずだが、夏日のように感じ仕方がない。 タイムスリップでもしてしまったか、と思わず携帯電話で確認してみたが、記憶通りの5月10日である。 暑い日の昼時の街を、一人の青年が歩いていた。 黄色い長袖に白い半袖シャツを着込み、袖無しの黒い上着を着こんでいる。彼の好みなのだろうか、黒い上着は膝辺りまで伸びて、動く度に擦れていた。 下はジーパンだが、ところどころ切れ目が入っている。少し前に流行っていた、ダメージジーンズという種類である。 歩いている道には色んな店が並んでいるが、どこも繁盛していない空気が漂っていた。 右手側には多くの車が走っており、親子連れなどが行き交っている。 ここは駅からだいぶ離れているため、だいたいこの道を歩く人は駅前へ用事がある人か、帰るの二手に別れる。 「あちぃ……わかってはいたけど、こんな暑さじゃぁ……」 普段の口癖が出る前に、歩道の親子連れの子の方に意識がいった。 上機嫌な様子の男の子が笑いながら、母親の周りを駆けている。 脳裏に、鈍い痛みが走った。それは警鐘のようなものだと思うと同時に、身体が動いた。 「くそったれ!」 女性の悲鳴が上がり、その場にいた通行人の視線がそちらへ向く。 勢いを余した子供が、歩道から飛び出してしまったのだ。 道路にはバスが近付いており、急ブレーキをかけるが間に合いそうにない。 その場において間に合うことができたのは、ただ一人だけである。
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