陽が差さぬ場所

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「だって私、無意識を操れるもの」 さらりと言った言葉に、蓮は怪訝な顔になった。 「意味がわからん。それは……」 真意を訪ねようとした時、部屋のドアをノックする音が響いた。 先ほどの少女がドアを開き、入ってきたのは勇儀とキスメであった。 「あら、ようやく起きたかい?」 先ほどの着物姿とは違い、体操着に袴のようなものを着こんだ勇儀は、盃と蓮の上着を持っていた。 「勇儀、無事だったのか」 「それはこっちの台詞だよ。あんたを運んだのは私なんだからね」 勇儀が投げた上着を受け取り、蓮は苦笑を浮かべる。 キスメは勇儀の後ろに隠れてしまっていることから、完全に嫌われてしまったようだ。 「一体、何がどうなったんだ? 闇の中に飛び込んだまでは覚えてるんだけど、そこから完全に記憶がないんだ」 「一瞬だけですが、トラウマというのが目覚めたのでしょう」 凛とした声が響き、少女が入ってきた。 ピンクより少し紫かかった髪の毛をカチューシャで止め、ハートの飾りが胸辺りにある瞳のようなものに繋がっていた。 「トラウマに近いものは、無意識に記憶から消し去ろうとする。忘れ去ったと自分も思い込ませているんですね」 彼女はゆっくりと歩いてベッドに近付き、にこりと笑った。 「安心してください。幻想郷は全てを受け入れる……たとえ、貴方が死人であったとしても」 蓮の瞳が剣呑に煌めいた。しかし、どうすることのできない彼は、言葉を口にしようとした。 「失礼、私は地霊殿を管理している者で古明地さとりと申します。えぇ、貴方の予想外通りこいしの姉ですよ……そして、心を覗いてしまう妖怪、『さとり』ですよ」 「さとり、か……俺は」 「神谷蓮さんですよね。存じております」 蓮の発言を遮り、さとりは言葉を続ける。物言いたげな彼など、完全に放置である。 「貴方の疑問に、私はいくつか答えることができます。言いたいこともあるでしょうが、まずは……」 彼女はスカートの両端をつまみ上げ、軽く解釈をした。 「ようこそ、地霊殿へ。歓迎しますよ、神谷蓮さん」 六花の一片を担う、強き武人よ。 その言葉を聞いた瞬間、蓮は瞠目した。 いや、しかし。それはともかく言わせて欲しい。 「頼むから、喋らせてくれ」 空は清々しいほど青く、太陽が登っている。 「絶賛洗濯日和ですね」
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