陽が差さぬ場所

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人気のない神社であった。 石造りの階段の先にあり、左右には漆塗りの鳥居が聳え立つ。その本道のいたる場所には石造りの柱が立っており、人がいなくとも神聖な空気で満ち溢れていた。 参拝者がいないのは仕方ないのだ。ここは山の山頂、たどり着くのにひと苦労かかるため参拝者はない。 そもそも、この神社に人間が来ることはないのだ。 幻想郷に存在する妖怪の山という場所には、人間はいない。 その神社、名を守矢神社という。 本殿の裏側に、少女がいた。 青い巫女服に脇をちらつかせ、緑の髪にカエルの髪止めを付けている。左右の髪を胸辺りにかかるように伸ばし、左側の髪には蛇の装飾が巻き付いている。 手には湿った衣類が篭に入っており、それを縁側に置く。 「最近は雨続きでしたからね。干せる時に干しておかないと、じめじめしちゃいます」 東風谷早苗は篭の衣服を掴み、広げるように腕を振るった。 それを2、3度繰り返したところで、早苗は手を止める。 どうやら神聖な空気のこの場に、妖気が混じり始めていた。 顔を上げて周囲を見渡して、確信を持った瞬間に呟く。 「誰ですか?」 「――――さすがは現人神、といったところですか」 林の中から、青い着物を着た青年が出てくる。 額には天へと短く伸びる角を認めて、早苗は袖口から符を取り出した。 「鬼……ここが守矢の地だと知ってのことで?」 「重々承知の上でございます。此度は戦ではありません。どうか符を下ろしてください」 そうは言っても見ず知らずの鬼を警戒せずにはいられない。 符を構えたままの早苗を予想していた青鬼は、そのまま話しを続けた。 「私は青鬼と申します。星熊勇儀の代行として、お願いをしに参りました」 「勇儀さんの?」 勇儀のことは、早苗も知っていた。 よく宴会で会ってはその酒乱ぶりを見せるので、自然と覚えてしまったのだ。 「はい。今、地底にて異変が起こっています。どうか、巫女様のお力を借りたいのです」 「………私ではなくて、博麗を頼れば良いのでは?」 幻想郷の一つ目の神社、博麗神社にも巫女はいる。正直な話し、彼女の方が腕前は上である。 しかし、青鬼は首を横に振った。 「あちらでは多大な請求を寄越せと言ってきますので……」 「……私も巫女ですし、助けてあげたいのは山々です。ですが、こちらにも生活がありますし………」
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