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「もちろん、報酬はお出しします。お申し付けくだされば、ある程度はご用意はしましょう」
ちなみにその判断は青鬼のものであり、勇儀ではない。しかし、報酬を出さなければ巫女が動かない。
要は高いか安いかの違いである。
「…………ですが……」
「いいじゃないか。行っておやり、早苗」
瞬間、壮絶な神気が青鬼の肌を焦がした。
いつの間にか、簀に女性がいた。胡座をかいて片足立てて、その膝に肘を乗せている。
赤い服に胸元には大きな鏡が輝き、その眼光は鋭い。
「神奈子様……」
「地底に行っておやり。随分と楽しいことが起こっているみたいだしね」
笑みを絶やさず、八坂神奈子は言った。
「同胞が目覚めたようだ。顔を拝みに行ってやりな」
「同胞……ですか?」
先ほど、幻想郷の大地に神気が蔓延るように広がった。
それはつまり、地底に神が現れたということだ。
地底にはすでに橋姫がいるが、彼女では大地を震わせるほどの力は解き放てない。それが出来るのは、命を落としかける事態になった場合のみ。
もし、そのような事態になっていたとしたら、危険な異変である。
「異変の可能性もあるからね。博麗は異変でも幻想郷の危機でないと動かないからね」
「そうですね。どちらかというと、この異変は地底のものです……ですが」
一呼吸入れて、青鬼は瞳を剣呑に煌めかせた。
「後々、幻想郷を揺るがす事態に発展する可能性も、ありえます」
「と、いうことらしい。今のうちに霊夢に貸しを作っておくのも悪くはないだろう」
「………わかりました。でも、その前に」
手に持つ衣類を再び叩いて、物干し竿に干し始めた。
干された衣類があれなものだったので、青鬼は慌てたように背を向ける。
やがて、この場にいても恥ずかしい思い、神奈子へと言った。
「あー……久しぶりに地上へ出てきたので、知人たちに挨拶して来ます。後程迎えに上がりますので」
「早苗の手作業は早いからね。上がっていきな、お茶くらい淹れてあげるよ」
腰を上げる神奈子に、青鬼は慌てて振り返る。
「いえ。神にそのような恐れ多いことを……」
「あたしらは神と一重に言っても、今は人間と変わらない身……そう畏まることはないよ」
そうは言っても、と青鬼は困る。
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