陽が差さぬ場所

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その話しを聞いて、思わずクッキーを頬張る空に目を向けた。 できるのか、そんなことが。この馬鹿に。 「大丈夫ですよ。この子もそれなりに頑張る子ですから」 蓮ははっとさとりを見る。第三の目を持つさとり、その名を持つ妖怪のごとく、彼女には人の心が解るのだ。 だから、つつのけだと理解しているからこそ、蓮は思考する。 だったら、頼むから会話をしてくれ。会話のキャッチボールをしようよ。 「えぇ。私も蓮との会話がしたいですよ」 にこりと笑うさとりは美しく、聖母のようなものだった。 先程までは、蓮もそう感じていた。 ことごとく、質問を覚って答えられるまでは。 「いえ、その方が疑問に早く答えられるじゃないですか」 「よく言うよ……」 「ねー」 クッキーを食べていたこいしが、痺れを切らしたように言った。 「幻想郷の説明出来たら、次の疑問解決といこうよ!」 「そうだね。あたしもさっきから、それが気になっていたんだ」 盃を口か離し、勇儀はさとりを見やった。 「どうしてパルスィがあんなことを……それに」 次に目を向けるのは、顔をしかめている蓮である。 「どうして蓮から、神通力が?」 「えっ……」 聞いていなかった蓮が、その言葉に驚きの声を上げた。 危うく溢しそうになる紅茶を支えて、蓮は尋ねる。 「なんだよ、それ……」 「……やっぱ覚えてない?」 こいしに頷きながら、蓮は必死に記憶を掘り起こした。 覚えているのは闇の中へと飛び込み、なんで呼吸出来るんだよと思いながらパルスィを攻撃していた。 その一打一打には確かに手応えがあり、このまま倒せると考えていたのだが。 やはり、神を侮ってはならなかった。首を捕まれ呼吸が苦しくなって。 「……っぁ」 はっ、と何かを思い出すように、蓮は瞠目した。 こいし達がどうしたものかと問い掛けるより早く、彼はベッドの辺りをまさぐり始める。 まるで何かを探しているような仕草に気付き、勇儀は壁にかかっている上着を指差した。 「やっぱり、アンタの首飾りかい? 上着に入れておいたよ」 壁から上着を剥ぎ取るようにして、蓮は即座にポケットに手を入れた。 取り出したのは、十字架の首飾りであった。中心の瑠璃の水晶が光りを放ち、不思議と優しい気持ちにさせてくれる。 「良かったぁ……ありがとな、勇儀」 「っ……あ、いや……」
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