陽が差さぬ場所

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満面の笑顔のお礼に、勇儀は頬を紅潮させた。 「………照れてる」 「や、やかましい!」 茶化してくるこいしの額に指弾を当てて、まだ紅潮が残る顔で勇儀は尋ねた。 「それは大切な物なのかい?」 「あぁ……命に次ぐ、大切なものさ」 瑠璃色の水晶を見つめる眼差しは、どこまでも優しかった。 先程までの瞳にも優しい色をしていたが、これもまた別の意味で優しい。 優しくて、それでいて懐かしむように。 「…………話しを元に戻しましょう」 さとりの声ではっとなり、視線が彼女へ集まった。 「幻想入りする際に、人間が神の力を得るというのは稀にあると聞き及んでいます」 それは幻想郷の最高位に座する神、もしくはそれに連なる者が与えるという。 だが、それは仮初めのものでしかない。異変解決によって導かれた外来人に渡された神気は、その役目を終えれば神の元へと戻る。 それは一瞬ではなく、まるで力が衰えていくかのように、徐々に消えて行くのだ。 そしてそれが尽きた時、神の代行として、幻想郷の一角を担う者達は外来人に帰るか残るかの選択を迫るのだという。 このことを覚えている者は少なく、今ではほとんどが行使されていない。 「ですから、死んだ人間が幻想入りして神の力を得る……というのもありえなくはないんですよ」 「………てことは、だ」 その話しからすれば、異変というのは橋姫の暴走を指しており、蓮はそれを止めるだけのために生かされている。 そう思案するのが妥当だが、さとりは首を横に振った。 「いいえ……貴方の場合、少し違う気がするんですよ」 「………神気、だね?」 さとりの言わんとすることを察した勇儀が、言葉を繋げる。 「蓮の神気は、紛い物なんかじゃない。本物だったよ」 かれこれ何度も神気を感じてきた彼女達だからこそわかる。 蓮の力は限りなく本物だ。パルスィに違うことのない、凄まじい神通力。 それが指すことは、蓮が神であるということに他ならないのだ。 「うにゅう………」 「おい、うにゅほが追い付いてきていないぞ」 「いいんだよ。お空は馬鹿だから」 「つまるところ!」 話しが脱線しかけたところで、勇儀は再び話しを戻す。 「蓮がどうして神通力を使うのか、パルスィがあんな風になってしまったのか……今のところ検討がつきません」
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