74人が本棚に入れています
本棚に追加
返ってきたのは肯定であり、さとりは微笑んだ。
「この地霊殿には余るほどの部屋があります。そんな心配は要りませんよ」
「………俺、人間だぞ?」
「ついさっき脱人間宣言してたじゃないか」
半目になった勇儀の抗議に、蓮は胸を張って答えた。
「脱人間宣言なんかしてない。死んだ元人間だと現状を現しただけさ」
「いけしゃあしゃあと……」
こいしの呟きに苦笑し、空気が軽くなったのを感じた。
「この部屋をこのまま使っていただいても大丈夫ですよ。一応、和服で良ければありますし」
さとりが笑顔のままで告げるのを聞いて、とりあえず和服だけと頼む。
彼女はそのまま笑顔で頷くと、軽く手を叩いてみんなの意識を集めた。
「さぁ、みんな所定の位置に戻って。仕事があるでしょう」
はーいと子供のように返事をして、空とこいしが部屋を出ていく。
「後で赤鬼達から服を貰ってくるよ」
勇儀が部屋を出ようとした時の言葉に、蓮は驚いた顔をする。あの巨大な体躯の服が、人間である自分に着れるのだろうか。
すると、勇儀は苦笑して説明をした。
「あいつらだって、ちゃんと人の姿をするさ」
主に地上の宴会に出る時など。
安心したように息をつく蓮に、勇儀は苦笑したままだった。
全員が出ていき、紅茶を片付けながらさとりは言った。
「まだ眠いのでしょう? 案内は明日にしましょう」
「………うん、悪い。あと、これからよろしく」
礼儀良く言う蓮は、やがて微睡みへと沈んでいった。
心が覚れなくなったのを感じ、さとりはお盆を持ち上げて目を細めた。
眠る男の顔は優しく、あどけないものだった。
「…………どうして、貴女は何も言わないんですか?」
出会ってまだ1時間程度しか経っていないが、彼は覚の力を知っていた。さとり妖怪は外でも有名だというから、知っていてもおかしくはない。
だが、彼は一度も気味悪いなどとは思わなかった。それどころか、どうやって出し抜こうかと考えて遊んでいた。
今までも外来人の中で驚きはしたものの気味悪いと思った者はいなかった。だが、それを楽しむような者は初めてだ。
「………ずっと、そんなことを考えて……」
一度も、彼は畏れを抱かなかった。
どうして、そんな風に平気でいられるのか仕方なかった。
最初のコメントを投稿しよう!