74人が本棚に入れています
本棚に追加
聞きたいけれど、彼は眠ってしまった。
まだ、時間はある。これから知っていけばいい。
そっと微笑み、さとりは部屋を後にした。出る際に電気も消し、部屋は暗闇に包まれた。
暗闇に包まれる部屋に、音もなく女性が現れた。
そっと手を伸ばし、眠っている蓮の頬を優しく撫でる。
「………鉄の子。その身に枷がなかったから、この子に辛い宿命を負わせてしまった」
いや、この子が六花の一片となった瞬間から、これは運命付けられていたのだろう。
死んだという結果を歪ませてまで、彼に世界の命運を押し付けてしまった。
「………ごめんね、涼華」
そっと目を伏せて、頬を撫でていた指を机にある首飾りへと持っていく。
チェーンは壊れたままでそこに鎮座しているが、まるで蓮を見守っているようであった。
彼女が呪言を唱えると、首飾りの瑠璃水晶が淡く光だした。それは目覚めを促すようなものではなく、気付かれない程度の輝きだった。
「…………ごめんね」
光が止んで部屋に明かりがなくなった時、女性の姿は消えていた。
最後まで謝り続けた女性ではあったが、この場に誰かがいたのなら気付いていただろう。
その優しい眼差しは、まるで母親のごとく心地いいものだったいうことに。
少女は気付いていない、彼が放つ力の意味を。
青年は知らない、己に化せられた運命を。
世界は告げた、終わりへの道が繋がり始めたことを。
世界は委ねた、鉄の意思に。
やがて、それは絶望を打ち砕く力となろう。
、
最初のコメントを投稿しよう!