74人が本棚に入れています
本棚に追加
そのおかげか結界術に長け、蓮に回復の結界を施したのをきっかけに絡むようになったのだ。
「今日は炒飯だよ。っても、塩と醤油の味付けだけど」
「なんだっていい。くれ、くれくれ!」
外見はかなりの美女が炒飯をねだるというのは、なかなかシュールなものである。
勇儀のような美女にねだられたら、ころっと許してしまうものだが、護狼が嫌そうな表情をするのには理由があるのだ。
「毎回酒代踏み倒すじゃないか」
「あーん、あたしの言うことが聞けな……」
「喧しい。昨日も一昨日もたかってるくせに、これ以上迷惑かけるなよ……」
すでに常習犯となっているため通用せず、さすがに蓮が咎めるように言った。
かといって勇儀達に反省の色が見えているわけではなく、逆にふんぞり返る始末である。
「知るか!」
「酷いな、おい……」
言葉をなくして護狼は、従うように調理を開始する。
散乱している酒ビンなどを片付け、一同はカウンター席へと移る。
「夕方か……ほんと、時間がわからん」
「だからって、ずっと居酒屋の世話になりっぱなしというのもどうかと思うよ」
ぬっと、いつの間にかこいしが現れた。蓮の膝に座るように、楽しげに見上げていた。
このやりとりも何度が体験すれば慣れるもので、驚きもせずに襟元を掴み椅子からおろす。
「ちょっと、せめて驚いてよ!」
「慣れた。そんなんじゃ、俺は満足出来ないぜ?」
頬を膨らませるこいしに笑い、蓮は席を立った。
彼女が来るのはいつもさとりが食事の用意を始める時だから、今回もそうなのだろう。
「おっ、さすがに4日も続けばわかるか」
「まぁな。じゃ、俺はここいらで」
一同に手を振りながら外へ出ると、そこには何人もの妖怪達が行き交う大通りに出る。
すでに彼の姿は見慣れたもので、そこにいても違和感は感じさせなかった。
だが、蓮は焦りに似た感覚を身に受けていた。
今だ事件の解明は進んでおらず、彼自身も神通力が使えそうな気配はない。
事件を解決するために生き延びているというのに、これではただの生き恥でさないだろうか。
そのことだけが、ここに来てずっと彼の心にのし掛かっていた。
「…………れーん?」
「っ!?」
―――――れーん、どうしたの?
不意に懐かしい声が耳の奥を掠め、蓮は視線を落とす。
こいしが寂しそうに、首を傾げていた。
最初のコメントを投稿しよう!