鉄を操る者

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そのおかげか結界術に長け、蓮に回復の結界を施したのをきっかけに絡むようになったのだ。 「今日は炒飯だよ。っても、塩と醤油の味付けだけど」 「なんだっていい。くれ、くれくれ!」 外見はかなりの美女が炒飯をねだるというのは、なかなかシュールなものである。 勇儀のような美女にねだられたら、ころっと許してしまうものだが、護狼が嫌そうな表情をするのには理由があるのだ。 「毎回酒代踏み倒すじゃないか」 「あーん、あたしの言うことが聞けな……」 「喧しい。昨日も一昨日もたかってるくせに、これ以上迷惑かけるなよ……」 すでに常習犯となっているため通用せず、さすがに蓮が咎めるように言った。 かといって勇儀達に反省の色が見えているわけではなく、逆にふんぞり返る始末である。 「知るか!」 「酷いな、おい……」 言葉をなくして護狼は、従うように調理を開始する。 散乱している酒ビンなどを片付け、一同はカウンター席へと移る。 「夕方か……ほんと、時間がわからん」 「だからって、ずっと居酒屋の世話になりっぱなしというのもどうかと思うよ」 ぬっと、いつの間にかこいしが現れた。蓮の膝に座るように、楽しげに見上げていた。 このやりとりも何度が体験すれば慣れるもので、驚きもせずに襟元を掴み椅子からおろす。 「ちょっと、せめて驚いてよ!」 「慣れた。そんなんじゃ、俺は満足出来ないぜ?」 頬を膨らませるこいしに笑い、蓮は席を立った。 彼女が来るのはいつもさとりが食事の用意を始める時だから、今回もそうなのだろう。 「おっ、さすがに4日も続けばわかるか」 「まぁな。じゃ、俺はここいらで」 一同に手を振りながら外へ出ると、そこには何人もの妖怪達が行き交う大通りに出る。 すでに彼の姿は見慣れたもので、そこにいても違和感は感じさせなかった。 だが、蓮は焦りに似た感覚を身に受けていた。 今だ事件の解明は進んでおらず、彼自身も神通力が使えそうな気配はない。 事件を解決するために生き延びているというのに、これではただの生き恥でさないだろうか。 そのことだけが、ここに来てずっと彼の心にのし掛かっていた。 「…………れーん?」 「っ!?」 ―――――れーん、どうしたの? 不意に懐かしい声が耳の奥を掠め、蓮は視線を落とす。 こいしが寂しそうに、首を傾げていた。
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