鉄を操る者

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「大丈夫? 泣きそうな顔していたけど………」 「あー、いや……行方不明の人達を思うといたたまれない気持ちになってだな」 誤魔化すようにこいしの頭を撫で、そっと笑いかける。 「心配だろう」 「………昨日ね、お姉ちゃんが言ってたんだけど」 撫でられるために下を向いていたが、こいしは顔を上げた。 「蓮、焦ってない? 別に焦ることなんてないんだよ?」 一瞬だけ、蓮は言葉が詰まった。だが、それもすぐのことで、頭をわしゃわしゃと撫で回す。 「んなわけないだろ。早くいなくなった人達を助けてやらないとな、って思っただけさ」 蓮がそう言うのなら、こいしは何も言えない。 心が覚れるさとりはすでに知っていたが、あえてそれを言わなかった。言ってしまえばさらに自分を追い詰めてしまうと判断し、それは正しかった。 こいしもそれは思ったが、尋ねずにはいられなかった。でなければ、こちらが辛い。 「さっ、帰るぞ」 「今日の晩御飯何かなー」 本当はもっと違う言葉をかけたかったが見つからず、何気ない話題逸らしに乗るしかなかった。 だからせめて、蓮の左腕に抱きついた。それで彼の焦りが消えるとは思わないけど。 周りを見れば平和な光景が広がり、先日の騒動などなかったような空気だ。 だからこそ、彼らは気付いていなかった。 蓮を睨み付ける人影が、柱の影にあったということを。 「……………妬ましい、うさ」 こいしと別れて息を吐き、蓮は隣の自室に入った。 とりあえず上着などを畳んで和服に着替え、ふとぼやく。 「………いくら居候の身といえど、いやだからこそ、何も手伝わないというのは失礼極まりないよなぁ」 蓮は働いていない。とりあえず今は事件を追っているが進展はなく、ずっとさとりに世話になりっぱなしなのだ。 男として、それはどうかと思う。 かといって家事も料理も出来ない彼に、何が出来るのだろうか。 ベッドに腰かけて思案していると、ふいに猫の鳴き声が耳に届く。 顔を上げれば入り口に黒い猫がおり、とてとてと歩いてくるとベッドの上に飛び乗った。 黒い毛並みが光と妖気を放ち、瞬く間に人の姿となった。 黒いスカートの上着を着込み、赤い髪には黒い猫耳がついている。 「蓮ったら、ご飯だって」 「悪かったよ、悪かったから猫耳をぐりぐり押し付けるな、お燐」
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