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しかし、嫌われたくないから堪忍袋に触れないように恐れている姿は、怒られるのが怖い子供のようで、蓮は気付かれないように笑みを溢した。
妖怪とはいえ外見が幼いからか、その仕草までもが幼くなって見える。
そんな気持ちを覚ったさとりも、気付かれないように笑っていた。
彼女も齢はともかく、幼い風貌をしている。それでも地霊殿の管理者として、姉の威厳を保とうとしている。
こいし達は凄い姉として尊敬していて、完全無欠な少女だと思っているだろう。
だが、蓮はさとりが数日前まで料理が作れないという事実を知っている。地霊殿にはペットしないないのでそれとなく作れば良かったのだが、蓮が居候することになったため料理を作らなければならなくなってしまった。
だから、地上からの巫女に頼んで料理を教えもらっていたのを、覚えていた。
それを知っているのは、その巫女と蓮だけであろう。
だから、彼にはそんなさとりが背伸びをするお姉ちゃんに見えて、微笑ましく思えるのだ。
「………蓮さん」
はっとなった時には、すでに遅かった。
「いくらなんでも、それには同意しかねるんですけど?」
「もぉー、二人の世界は禁止!」
痺れを切らしたこいしが、二人の間に割って入った。
頬を微妙に紅潮させていたさとりが、二人の世界という言葉でそれを明らかにする。
「こいし、二人の世界って……別にお姉ちゃんは」
「で、で? 蓮って強いの?」
言葉を遮って尋ねてくるこいしに、さとりは不満そうな顔をする。
そんな彼女に苦笑して、蓮は少し間を置いて答えた。
「………強く、ないよ。弱かった、守りたいものも守れずに……」
優しい瞳に、影がかかった。同時にさとりが心を読み取れなくなり、目を細める。
彼はさとりの力を封じることができる。どんな手段を用いているのかは知らないが、時通り覚ことができなくなるのだ。
辛そうな表情をする蓮に、こいしは触れてはいけない話題だったということに気が付く。
「………そんな強くない。ちょっと運動神経がおかしくなった、ってだけだよ」
それきり黙々と、沈黙の食事が最後まで続いた。
強くない、強くない。その言葉はこいし達の質問に対しての返答。
「強く、ない……」
なのに、こいしの耳には、自分に言い訳しているように聞こえて仕方がなかった。
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