鉄を操る者

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※※※※※※ 「風鬼」 呼ばれて顔を上げると、友が瓢箪を掲げていた。その後ろには最強の鬼と謡われる勇儀もいて、気付かぬうちに頬が緩んでいた。 赤鬼は風鬼の隣に座り込むと、了承も得てないのに、三つの杯を用意して酒を注いだ。 「酒だけか」 「十分だろ。差し入れてやるんだから、文句言うなよ」 「まぁ、蓮ならここで、いやいやいや、仕事してる相手に酒進めるってどうよ。せめてお茶と食い物持ってきてやれよ、って言うだろうね」 最近やってきた外来人のことを思い返し、三人は苦笑した。 地底で名を響かせる鬼を相手にして、まったく尻込みしなかった人間。 最初は赤鬼は気に入らないという印象があったが、今では馬が合う友人だ。 彼は橋姫を堕とした者を見つけると息巻いて、毎日のようにこの場所を訪れる。 大概それには地霊殿の者が着いてきては、暇そうにしていて、やがてこちらへと歩いて来るのだ。 ―――どうして、あんなに焦っているんだろうね 蓮はここの住人じゃないのに、どうして。 彼女達は口々に、不思議そうに首を傾げていた。 「お前も大変だなぁ。こんな役割買って出るなんて」 「お前もだろうが」 まるで他人事のように言う赤鬼だが、彼もここの見張り役をやっているのだ。 本来いるはずの橋姫の代わりが必要だった。地上からの侵略を防ぐために。 元より、地上と地底は表と裏のように隣り合わせだが、接触することはなかった。 だが、以前に起きた異変により繋がり、地底だけに固執してはいけないと全員で決め、穴を掘ったのだ。 だが、邪な者が再び来ないとも限らぬため、橋姫が番人を買って出てくれたのだ。 その橋姫が倒れたのだから、彼らが代行をしている。 「あいつらは、よく来るのか?」 「昨日も来ていた」 杯を口に傾け、風鬼は軽く息を吐く。 蓮は何度もここへ来ては、闇の気配を探っていた。しかし、感じられるのはパルスィの水気だけであった。 「手掛かりはないというのに、何度も来ては肩を落として帰っていく……見ているこっちが参る」 感情に乏しい風鬼だったとしても、良心がないわけではない。やはり見ていて辛いと感じるし、どうにかしてやりたいとも思う。 だが、この事件は手に終えないことばかりであった。 「………パルスィが嫉妬を暴走させていた。どう見る?」
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