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勇儀の真剣な声色に、傾けていた杯を止めた。
「……この場に手掛かりはなかった。青鬼の力を持ってしても水気は澱んでいなかったというから、それは確かだ」
赤鬼や青鬼というのは彼らの名ではなく、鬼族の分類だ。赤は苛烈な焔を操り、青は清らかな水を操る。
橋姫と同じ性を持つ青鬼ならば変化を読み取るだけでなく、邪気が混じっていないかすぐに判明することができるのだ。
だが、結果は不明。いつもと変わらない、というものだった。
「ということは、術ではなく能力ってことになるね」
この幻想郷に住まう者の中には、能力に開花する者がいる。
例えばパルスィは『嫉妬心を操る程度の能力』、こいしは『無意識を操る程度の能力』、さとりは『心を読む程度の能力』などである。
ほとんどが特別なものではなく、特性を現したりしているものが多く、これらは能力とは言えるかどうか、微妙なところだろう。
しかし、人間には能力と呼べる物は多い。時を止めたりするのは、完璧に能力と呼べる。
「………嫉妬、というか感情を爆発させた、か」
勇儀の何気ない嘯きは、かのパルスィの状況を示していた。
「姐さん、もしかして……」
「………あまり、考えたくはないね」
苦虫を噛み潰したような顔で、勇儀は杯の酒を飲み干した。
パルスィがそう簡単に能力を振るわないのは、それが幻想郷の掟であると同時に神としての誇りが無意識に抑制しているのだ。
だから彼女達神や妖怪が不用意に能力を使う者はいない。私生活に応用したり豪腕を振るったりするのは、単なる活用法だったり娯楽だったりする。
「感情を爆発させる程度の能力………いや、感情を操る程度の能力、か」
「姐さん……!」
赤鬼の悲痛な声は、風鬼に確信を持たせた。
かつて、この地底に一人の鬼がいた。彼は数少ない能力持ちで、共に酒を飲み交わした。
だが、ほんの少しの誤解と傲慢によって、彼は消えてしまった。あれほど後悔したことは、今までなかっただろう。
「けど、あいつは死んだはず……」
「ここは幻想郷。常識に捕われちゃいけないと、よく言うだろう」
だが、その言葉は外から来た人間に当てはまるのだ。
たとえ幻想郷といえど、死者が蘇ることは決してない。
「あいつを最後に見届けたのは、地霊殿のペットだったね?」
「えぇ、灼熱地獄に突き落としましたから」
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