鉄を操る者

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そう言いながら、当時のことを思い返して泣きそうになった。 どうして、あの時気付いてやれなかったのだろうか。 どうして、あのような仕打ちをしてしまったのだろうか。 何度もその言葉が口から零れそうになり、それを抑えた。 鬼といえ闇に属する者といえど妖気を持つ以上、言霊が発動してしまう。それによってこれ以上不吉なことを起こしたくないからである。 「たとえ奴だったとして、どうします?」 「……蓮には任せておけないね。鬼のことは鬼で片付けないと……」 そこで勇儀の言葉が止まった。その瞳は警戒の色を強く表しており、その視線は赤鬼の背後へ向けられていた。 不審に思って赤鬼が顧みると、そこには男が立っていた。 出で立ちは赤鬼達と大差ないが、特徴はその頭についている白い耳だ。それは彼が兎だということを証明していることに他ならない。 地上の永遠亭という場所に兎がいるという話しを良く耳にするが、勇儀が宴会で会った彼女達と雰囲気がまったく違っていた。 「………あんた、どうしてここに?」 ここは地上へ続く穴に繋がる橋だ。地底の妖怪が地上へ行くためにはここを通らなければならないが、彼らはここを通ることはない。 地底の妖怪は地上が嫌いなのだ。 「…………妬ましい、うさ」 「……まさか」 零れた言葉が耳に届いた瞬間、嫌な予感が三人の脳裏を掠めた。 瞬間、兎男の妖気が爆発した。橋下の川の水が妖気で波紋を起こし、音を立てて橋が軋む。 「こいつ……」 妖気を受けながら、赤鬼は目を細めた。 この地底の住民で、鬼に喧嘩を挑む者はいない。それは酒に争いは不用という暗黙の了解があるのと、鬼には敵わないという無意識段階での畏れがあるからだ。 こうして目の前で戦闘体勢に入る兎男も、感じた妖力は赤鬼にすら劣っている。 なのに仕掛けてくるということは、どういう了見か。 「お前、あたし達が地底の鬼だと知って……」 「黙れ黙れ黙れっ!」 突然、癇癪を起こしたように妖気が爆発し、赤鬼達に襲いかかった。 「あっ……」 赤鬼が振り返ったのは、酒の入っていた瓢箪が吹き飛んだからだ。それは綺麗な放物線を描き、ぽちゃんと良い音を立てて川に落ちた。 「…………おい」 勇儀が一声漏らした瞬間、彼女から凄まじい妖気が放てられた。
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