鉄を操る者

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蓮に追い付いた燐と並び、二人は地霊殿を後にした。 向かう場所は当然、狼賀である。地霊殿とその場所までは歩いてすぐ、というわけではないが難なく行ける距離ではある。 「にゃー、蓮も大変だね」 「他人事だと思いやがって……」 軽く睨み付けてみるが、燐は気にした様子もなく笑っている。 そんな彼女に怒る気など起こらず、蓮はふと気になっていたことを尋ねた。 「なぁ、俺って……端から見て妬ましいのか?」 「さぁー?」 そんな話しをしているうちに、二人は狼賀の前へとたどり着いた。 蓮が中に入ろうと戸を開けて、すぐに閉める。 「…………蓮?」 「…………よし、何も見なかったことにしよう」 踵を返して去ろうとする蓮の袖を掴み、燐は代わりに戸を開けた。 一瞬にして強い酒の匂いが鼻を刺激し、燐は思わず顔をしかめる。 これほどの匂いは宴会でなければ充満するはずないが、地底では宴会は日常茶飯事なのでおかしくはない。 だが、燐が見た光景は宴会にはほど遠いものであった。 「………あー、うん」 なるほど、蓮が帰ろうとした理由はこれか。 大爆笑している青鬼。 摩訶不思議な踊りをしている風鬼。 泣くじゃくっている兎男。 どう考えてもこのカオス空間に首を突っ込みたくはないが、見慣れない泣くじゃくっている兎男が件の人物だろう。 嫌だなぁと口の中で呟き、燐は蓮を引きずって中へ入った。 「いらっしゃ……あぁ、お燐か」 「やぁ、護狼は無事なんだ?」 「店員が参ったらやばいだろ……何か飲むか?」 「ミルク!」 軽快な会話を交わしながら燐は席につき、差し出されたミルクに口をつける。 蓮はというと、匂いにやられたのか顔をしかめており、とりあえず彼らが落ち着くのを待つらしく燐の隣に腰かけた。 「今日は酒じゃないやつで」 「そこの兎男、君に用事があるんだってね」 注文通りノンアルコールのミルクをカウンターに置く護狼の言葉に適当に頷き返し、どうしてこうなったのかを尋ねた。 すると、彼は呆れたように皿洗いを始めながら喋る。 「勇儀の本気でぶちのめされて赤鬼と風鬼が連れて来たんだけど、もう蓮を出せって煩くて……で、赤鬼が呼びに行っている間暇だからって酒を飲ましたら………」 こうなった、ということである。 色々と言うべきことがあるのだが、蓮はとりあえず。
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