鉄を操る者

13/32
前へ
/67ページ
次へ
「その、ブチキレた勇儀は?」 「風鬼の代わりに橋の監視。さすがに無人はまずいからね」 「……思ったんだけどさ、地底と地上ってそんなに中悪いのか?」 一瞬、空気が固まった。 触れてはいけない話題に触れたようで、思わず蓮は頭を下げる。 そんな彼に苦笑し、護狼は皿洗いの手を止めて答えた。 「まぁ、そうだな……実際はわからないんだ。どれだけの間交流を絶っていたか……ついこの前の異変で久々に地上と交わったらしいけど」 護狼がこの地にたどり着いた時には、すでに地底は地上との交流を絶っていたという。 それほど昔から、地底は陽を見ていないということだ。 「地上が気になる?」 燐の問い掛けには、即座に首を横に振った。 橋姫のいない現状では地上に出ることは出来ないだろうし、どの道死ぬことになる自分には関係のないことだ。 だが、こいしが言うには幻想郷の景色は素晴らしいという。それだけは見てみたい。 「…………まぁ、死ぬ前にそれくらいはいいだろう」 小さく呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく霧散した。 護狼は不思議そうに首を傾げたが、まぁいいやと皿洗いを再開する。 しばらく燐と「今日の晩飯は何か」や「さとりやこいしの恥ずかしい話し」という話題で、時間が過ぎるのを待つことにする。 が、何時まで経っても兎男は泣くのを止めず、風鬼も踊り続けている。青鬼はすでに倒れているというのに、タフな輩である。 「にゃーん……もう帰る?」 「何のために来たのかわからないな……それじゃ満足出来ねぇよ」 「なら、手っ取り早く」 さすがに護狼も迷惑していたのだろう。彼は屈んだと思ったらバケツを取り出し、その中にバケツを注ぎ始める。 嫌な予感しかしない。とりあえず、蓮は身を横へとずらし、それに真似るように燐も反対側へと倒れた。 「さっさと……」 並々に水の入ったバケツを大きく振りかぶり。 「起きやがれ!」 あろうことかバケツごと投げた。 放り出されたバケツは放物線というよりも、ただ単に落下するように三人へと放たれる。 まず摩訶不思議な踊りをしている風鬼に水がほとんど被り、その余波が笑っている青鬼の口へと入り、最後にバケツが兎男へと落下した。 「………まさか、投げるとは……」 水をかけるのではなく、バケツごと投げる。
/67ページ

最初のコメントを投稿しよう!

74人が本棚に入れています
本棚に追加