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「その、ブチキレた勇儀は?」
「風鬼の代わりに橋の監視。さすがに無人はまずいからね」
「……思ったんだけどさ、地底と地上ってそんなに中悪いのか?」
一瞬、空気が固まった。
触れてはいけない話題に触れたようで、思わず蓮は頭を下げる。
そんな彼に苦笑し、護狼は皿洗いの手を止めて答えた。
「まぁ、そうだな……実際はわからないんだ。どれだけの間交流を絶っていたか……ついこの前の異変で久々に地上と交わったらしいけど」
護狼がこの地にたどり着いた時には、すでに地底は地上との交流を絶っていたという。
それほど昔から、地底は陽を見ていないということだ。
「地上が気になる?」
燐の問い掛けには、即座に首を横に振った。
橋姫のいない現状では地上に出ることは出来ないだろうし、どの道死ぬことになる自分には関係のないことだ。
だが、こいしが言うには幻想郷の景色は素晴らしいという。それだけは見てみたい。
「…………まぁ、死ぬ前にそれくらいはいいだろう」
小さく呟いた言葉は、誰にも聞かれることなく霧散した。
護狼は不思議そうに首を傾げたが、まぁいいやと皿洗いを再開する。
しばらく燐と「今日の晩飯は何か」や「さとりやこいしの恥ずかしい話し」という話題で、時間が過ぎるのを待つことにする。
が、何時まで経っても兎男は泣くのを止めず、風鬼も踊り続けている。青鬼はすでに倒れているというのに、タフな輩である。
「にゃーん……もう帰る?」
「何のために来たのかわからないな……それじゃ満足出来ねぇよ」
「なら、手っ取り早く」
さすがに護狼も迷惑していたのだろう。彼は屈んだと思ったらバケツを取り出し、その中にバケツを注ぎ始める。
嫌な予感しかしない。とりあえず、蓮は身を横へとずらし、それに真似るように燐も反対側へと倒れた。
「さっさと……」
並々に水の入ったバケツを大きく振りかぶり。
「起きやがれ!」
あろうことかバケツごと投げた。
放り出されたバケツは放物線というよりも、ただ単に落下するように三人へと放たれる。
まず摩訶不思議な踊りをしている風鬼に水がほとんど被り、その余波が笑っている青鬼の口へと入り、最後にバケツが兎男へと落下した。
「………まさか、投げるとは……」
水をかけるのではなく、バケツごと投げる。
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