陽が差さぬ場所

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暗く、陽のない場所であった。 青い空が広がっているはずの頭上には、冷たそうな岩が固められている。 そこは、地底であった。太陽が見えることのない、雨も降ることはない。 しかし、じめっとした雰囲気は感じられない。それはしっかりとした町並みが揃ってあり、住民が明るく生きているからであろう。 その町並みの中を、桶を運ぶように走る少女がいた。 美しい金髪をリボンで結わえ、黒いシャツの上から黒いワンピースを着込んでいる。 表情は焦りを浮かべていた。 黒谷ヤマメは走る。背後からねたりと近付く、得体の知れない闇から逃げるように。 「……早く、地霊殿に知らせなきゃ………!」 「ヤマメ、後ろ!」 彼女が持つ桶から声が上がった。 桶にすっぽり、という言葉が当てはまるように入っているのは、幼い少女であった。 ヤマメは咄嗟に、背後を見やる。 得体の知れない、としか言い様のない闇がそこにはあった。空間としてではなく、物体のように迫る。 全体を黒い霧で覆っているそれに、ヤマメは焦る。 逃げ切れないと、悟ったのだ。さきほどに比べて距離が縮んでしまっている。 「お願い、キスメは地霊殿に事態を知らせて!」 言葉と同時に、ヤマメは桶を投げた。 「ヤマメっ!?」 悲痛な声が上がった。 無惨にも黒い闇が覆い尽くす。この地を滅ぼす、破滅のごとく。 やがて、闇は少女を飲み込んだ。 残された桶の少女、キスメに出来ることは、助けを求めて逃げることだけであった。 ※※※※※※ 明治時代ほどの町並みの中で、蓮は目覚めた。 裏路地の無造作に置かれている木材の上で、木箱に寄りかかるような形で意識を失っていた。 右手には木材の塀が立てられており、そこより先へは進めないようになっている。 左手側から、気配がする。一つ二つではなく、たくさんの気配だ。 蓮はゆっくりと立ち上がり、自分の出で立ちを確認した。 意識を失う以前と同じ格好で、どこにも汚れた箇所は見当たらない。 唯一違うのは、胸辺りに煌めく首飾りだ。下げてはいたが、見えないように服の中に隠していたのだ。 何かの拍子で外へ出たのだろうと軽く考え、今一度首飾りを服の中にしまった。 ここはどこだろう、と思いながら、人の気配がある方へと足を向ける。 気配を感じられる程度なだけあって、すぐに通りへ出た。
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