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そして、絶句した。
目の前に広がる光景が、信じられなかった。
待て、落ち着け、冷静になろう。
まずは状況確認だ。
神谷蓮、地元の大学に通う3年生だ。いつも通り大学へ行こうとして、道を歩いていたら子供が道端に飛び出したので、庇った。
「………おぉ。俺、死んだのか」
ならば、ここは地獄だか天国だか、とにかく現の世ではないのだ。
というか、そうでないと目の前の光景にも納得がいかない。
目の前で行き交うのは、人間ではなかった。人形をとってはいるし着物を着ているが、耳が尖っていたり角が生えていたりと。
俗に言う妖怪や鬼、といった風の者達であった。
「…………盛大なコスプレパーティー、なわけないだろうしな」
「おい、そこのお前」
どよりと周囲が動揺した。視線が一斉に彼へと向けられ、蓮も振り向く。
蓮を呼び止めたのは、人間でいう所の不良といった具合の輩であった。
数は3人と少ないが、異形故の存在だからか、威圧感が半端ない。
それでも、蓮が臆する様子はなかった。
「………何か?」
ここはどこか、という質問よりその言葉が先に出た。
このような風貌をした輩が素直にこちらの質問に答えるとは考えにくいからだ。「お前、人間だよな?」
「………そういうそちらは、どちら様?」
人間だと肯定した瞬間、ざわりとより一層に驚きの声が上がった。なぜ、人間がここにいる。そんな声などをBGMに、中央の一人が言葉を繋げる。
「鬼を知らないのか? それよりも、どうして人間が旧都にいる。ここは人間に限らず、妖怪ですらも入れないはずだが?」
「そうなのか? 生憎と、死んだと思って起きたらここにいたんだ。その問いには答えられない」
3人の鬼が、怪訝な表情で蓮を睨む。周囲の人々も似たり寄ったりの反応で、見世物じゃねーよと、内心呟いた。
「死んだら三途の川に召されて、死神に閻魔へ導かれるのが習わしだ。こんなところに来るはずがない」
「赤鬼、怪しい奴だ。ひとまず捕まえて、勇儀姐さんか入り口の守り神にでも渡した方が早いと思うんだけど」
なるほど、と思わず蓮は納得した。この3人の鬼達、それぞれ色が違う。
真ん中が赤い髪を持ち、右が青、左が緑である。それが名前になっているとは、便利なものである。
「そうだな。よし、捕まえるぞ」
赤鬼が腕を伸ばした瞬間、蓮は身を引いた。
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