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「………捕まりたくはないな。何されるかわかったもんじゃない」
「このっ……」
青鬼が蓮へと飛びかかる。その場から離れて、顔を最後の鬼に向ける。
その鬼は両手で貯めるように引いており、首筋が痛むのを感じた。
「風鬼、今だっ」
赤鬼が吠えるのと風鬼の手に、光が集まるのは同時であった。
今まで言葉を発さない鬼の力に、蓮は瞠目した。
「風鬼は勇儀姐さんの次に強い鬼だ。負けるはずがねーんだよ!」
風鬼が腕を振るった瞬間、凝縮されていた力が解放された。それは鎌鼬となり、蓮を襲った。
速度もそれなりにあり、回避しなければ食らってしまうだろう。
蓮は咄嗟に逃げようとしたが、背後の気配を認めて舌打ちした。
「っ……!」
短い呻き声とともに、鎌鼬が蓮の左肩を過ぎる。血が飛び出し、彼は右手で肩を抑える。
「はっ、口ほどにもねぇ……やっちまえ!」
赤鬼の号令に、青鬼が飛びかかった。風鬼は再び構えるが、何かに気付いて構えを解いた。
蓮まで2、3歩というところまで、青鬼が迫る。
そのとき。
上から突如、気配が落ちてきた。地面に着地した彼女は、青鬼の拳を止めて壮絶に笑う。
「随分と面白そうなことしてるね……人間相手に喧嘩かい、赤鬼?」
名指しされた赤鬼だけでなく、青鬼や周囲の通行人すらも瞠目していた。風鬼はその気配をいち早く察していたのか、特に驚いた様子はなかった。
「あたしも混ぜてくれよ」
「ゆ、勇儀の姐さんっ?」
降ってきたのは、額に一本の角を生やした女性だった。美しい赤を基調とし、黄色い花柄が入り込まれているた着物を着込んでいる。その花柄は蓮であり、その右手には液体の入った杯を持っていた。
星熊勇儀は左手で青鬼の拳を受け止め、ちらりとだが蓮を肩越しに見やった。
「怪我はないかい?」
「大丈夫、無傷だ」
この発言に、勇儀以外が疑問を浮かべた。彼の左肩には鎌鼬による怪我があり、ちゃんと出血もしている。
「大丈夫か?」
そう尋ねながら蓮が身を退けると、そこには幼い子供がいた。耳が尖っており、灰色の着物を着た子供が嗚咽を漏らしていた。
「なっ……」
赤鬼と青鬼は絶句した。まさかそこに子供の妖怪がいようとは、思いもしなかったのだ。
「…………避けなかったわけか」
初めて発言を漏らした風鬼は、踵を返して風となり姿を消した。
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