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それを気配で感じながら、勇儀は青鬼を話して蓮と向き直った。
「お兄さんの怪我はどうだい?」
「風鬼さん、だっけか……上手く狙ってくれたみたいだから、かすり傷だ」
風鬼の狙いは的確であった。出血が派手なのは最初だけで、すぐに傷口は塞がった。
「そうかい。そりゃ良かった……で」
勇儀はそろりそろりと、逃げ出そうとしている赤鬼と青鬼を睨み付けた。
「一体、何がどうなっているのかねぇ?」
「い、いやっ、姐さん……これには深いふかーい事情というものがですね………」
問い詰めてくる勇儀に対し、狼狽するしかない二人の鬼。
それを他所に蓮はしゃがみこみ、子供と同じ目線に合わせた。
「大丈夫か?」
「………どうして、人間なのに庇ったんだ?」
泣き止んだ子供は、疑問が耐えなかった。人間と妖怪は相容れない存在であり、この先もそうである。そう大人達から言われ続けてきた。
なのに、なぜこの男は妖怪である自分を庇った。
理解できない。
「なんでって……人間が妖怪を助けるのって、可笑しいのか?」
こくり、と肯定が帰ってきた。
なぜ庇った、と聞かれても蓮は困惑した。理由なんてただ助けたかっただけなのだが、信じてもらえないだろう。
何か理由を考えて。
いると一生思い付かなそうなので、即座に答えることにしよう。
「理由なんかない。どうしても満足したかったら、勝手につければいいさ」
「………変な人間だな、お前」
貶しているつもりなのだらうが、蓮は嫌な気分にはなれなかった。
子供は笑った。それだけで、十分だった。
「とにかく、お前達は人間が旧都に現れたことを、橋姫に伝えてきな。あいつはあたしが地霊殿へ連れて行くよ」
返事をして去っていく鬼達を見届け、勇儀は振り返る。後ろ腰につけていた瓢箪から酒を注ぎ、一気に飲み干した。
「ほんとに悪かったね、あいつらの早とちりでさ」
「まぁ、こっちも生まれて初めて鬼ってのを見たからな。震えていたんだし、お互い様さ」
苦笑する蓮に、勇儀も笑みを返す。
「とりあえず、アンタをさとりの所へ連れて行くよ。ここの代表みたいな奴さ」
さとり、と聞いて真っ先に思い付いたのは、妖怪の“さとり”であった。
人の心を覗く妖怪、さとり。鬼もいるのだから、妖怪さとりがいてもおかしくはないのだが。
心を覗かれるのは、ちょっと嫌だなぁ。
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