陽が差さぬ場所

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そんなことを考えながら、歩き出す勇儀の後を着いていく。 「そういえば、まだ自己紹介がまだだったね」 歩いている途中、勇儀が顧みた。 「あたしは星熊勇儀、見ての通りの鬼さ」 「あぁ。俺は神谷蓮、人間……だと思う」 自信なさげに、蓮は俯いた。自分は死んだ。子供を庇い、車に跳ねられ、その身を血で染めた。 そんな自分がなぜ、ここにいるのか。 もし、ここに本当に存在しているとして、自分は人間なのだろうか。 「……勇儀さん、ここはどこなんだ? あの世ではないみたいだけど……」 「ここは旧都、地獄跡地さ。まぁ言いえるなら幻想郷の地底ってところだね」 「………幻想、郷?」 聞き慣れない名称である。 首を傾げる蓮に、勇儀は背中を向けた。再び瓢箪の酒を杯に注ぎ、少量を口に浸す。 「悪いね、あたしは説明というのがどうも苦手でね。ここがどこかと聞かれたら、幻想郷の地底としか答えようがないのさ」 うむ、なるほど。先ほどの身のこなしなどから見て薄々は感じていたが、勇儀は頭より身体が先に考えるタイプなのだろう。 とりあえず動き、それからどうするかを考える。実に単純だ。 そう納得したのを気配で感じ取ったのか、勇儀は再び後ろに顧みた。その目は、若干つり上がっているように見えなくもない。 「今、なるほどって思わなかったかい?」 「まさか」 短く否定はするも、勇儀の目はつり上がったままだ。 「……にしもてもさ、勇儀の着ている着物って綺麗だよね。すごく似合っているし」 勇儀の顔が、虚をつかれたように固まった。やがて、首から頭にかけて、分かりやすいように赤くなっていった。 「な、なななっ、何バカなこと言っているんだい!? 鬼をからかうもんじゃないよ!」 そういう言葉をかけられたことがないのだろう、慌て過ぎて酒を注ごうとしていた瓢箪を落としていた。 慌てる鬼を見て、蓮は思わず目を瞬いた。 そう、目の前で慌てている女性は鬼だという。 想像していた鬼というのは、筋肉の体躯で棍棒を武器として、黒と黄色のシマシマ模様の服を着ている。 だが、どう見ても勇儀は女性にしか見えない。着物は本気で似合っているし美人で、角はあるけど衣装の小道具だと思えば納得出来てしまう。 「まったく……どうしたんだい?」 難しい顔をしているので、思わず勇儀も怪訝な表情をした。
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