陽が差さぬ場所

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陽が差さぬ場所

曇天が空を覆い尽くしたのは少し前で、今では大粒の涙が降り注いでいる。 地底では雨は降らないと思っていたが、思い過ごしのようだ。いや、冬には雪が降るというのだから、雨が降っても不思議ではない。 だが、この雨は、この雨だけは自然に起きたものではないと、直感が告げていた。 この雨は破邪の力が微弱ながら、含まれている。一滴はさほどではないが、これほどの土砂降りともなれば、異形には辛い槍となる。 「………そこまでして、滅ぼしたいか」 声が震えているのは、自分でもわかった。怒りと後悔の責を追っている今では、震えざる得なかった。 ―――優しい声ですね。とても穏やかで、心地良いです。 そう言ったのは、今と同じ場所に座る彼女。 あの時と違うのは、彼女が血塗れで意識を無くしていること。 「違うな」 意識を反らそうとしていた所で、声が反ってきた。とても楽しげな、明るい声だ。 「滅ぼしたいんじゃない、俺はお前と戦いたいだけさ……“あの時”の続きをしたいのさ」 「なら、こいつらを巻き込むのはお門違いだろ! 正々堂々戦えよっ」 今にも斬りかかりそうな勢いだった。その証拠に、左手は震えていた。 せめて握り締めていようと、手から血が滴り落ちる。 「わかってねぇなぁ……それだよ、それ。その表情をしているお前だよ、俺が戦いたいのは」 あの時の決着を着けるんだ。当然、本性をさらけ出すお前と戦わなきゃ、意味がないだろう。 そう告げられた瞬間、自分の中で何かが音を立てて砕け散った。 「………いいだろう」 ゆっくりと、左手を振るう。手首の鉄の腕輪がぐにゃりと変化して、その姿を身の丈ほどある大鎌になる。 もう、言葉は要らない。もう、決めた。 「震えろ。畏れと共に跪け」 にやぁ、と笑うのを感じた。それは、怒りという炎に油を注ぐ行為であった。 互いに奇声を上げ、駆け出した。 金属がぶつかり合う音が響き、閃光が世界を満たした。
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