2章 2人のキョリ

11/12
前へ
/90ページ
次へ
何度も何度も繰り返し言ってみてもいつも同じところで止まる。 夜空の月の光が辺りをうっすらと照らす。 まるで今の俺の心情のように淡く、寂しそうに。 「…そろそろ帰るか、アイツを心配させるわけにはいかないしな」 呟き、重い足取りで来た道を戻って行く。 何か思えれば全て悪い方向に考えそうだった、だから無心で歩いた。 宿に入り部屋へと戻る。 静かに扉を開け中の様子を覗いてみる。 中は部屋を出る前と同じままだった。 明かりはついておらず、不気味なほど静かだった。 「…何やってんだよ、俺。自分達の部屋なのに覗くとか馬鹿か…」 一人小声でツッコミを入れながら部屋へと入っていく。 着ていた上着を脱ぎ寝る準備をする。 「おやすみ、ハインケル…」 恐らく聞こえない程度の大きさで言葉を漏らす。 今の状況じゃこの言葉を言うのも辛かった。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加