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その日、傘を持っていなかった私は見事に急に降りだした雨に打たれずぶ濡れ状態だった―。
なんて、惨めな女だろう。
はたから見たらきっと失恋したての女か人生に疲れ切った女に見えるのだろうか?
ハハッ我ながら陳腐(ちんぷ)な発想しか出てこない
「最悪……」
めでたくパンプスの中まで浸透。
ため息を洩らして道の真ん中で途方に暮れていると
スッ
「えっ?」
「良かったらうちに来ませんか?」
赤い傘が頭の上に差し出された。
顔を上げると長身の髪を後ろで束ねた男が立っていた。
華奢でストライプのYシャツに黒のジャケット、ベージュのパンツといった装いだ。
一瞬、雨にかこつけたナンパかと思ったが彼の横に停められている車を見ると黒にクラウンのマーク。なかなか上品だ。
雰囲気にもどことなく余裕があって身のこなしも上品だった。どうやら想像したそれではないらしい。
「はい…助かります」
私はその傘の持ち主についていく事にした。
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