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「皆大喜びですね。まだ暫くは騒がしそうです。」
鉄之助が土方の自室の障子から外を伺いながらゆっくりと障子を閉め、土方の方へ人懐こい笑みをたたえながら向き直り言うと
「そうだな。この厳しい状況下だ。たまには息抜きも良いだろう」
土方は、切れ長の凛とした目を僅かに細めながら、部屋の外から漏れ聞こえる隊士達の笑い声に耳を傾けた。
自軍は形こそ連勝をしているものの、苦戦続きでかなりの死傷者を出している。自分を信じ、命を預けてくれている隊士達…。有り難い気持ちと、やり切れない思いが土方の胸を駆け巡る。
自室に呼ばれたのであるから、何か公にできない会話をされるのであろうということは鉄之助にも分かっていた。先程からの土方の笑い方も、いつもと少し違ってどこか哀愁の漂う様子だ。それにいつもの土方ならば、要件がある時には時間をかけず端的に指示を出してくる。それが今日に限って無い。
これは余程深刻な内容なのであろう。
考えの邪魔をしないように黙ってその場に待機し、しばらく見守っていたが、
土方はなおも目を伏せて何かを考えている様子だった。
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