第二章 発端

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リトミネンコはその言葉を残すと、すぐにその場を去った。 下手を打てば、リバチェフもマークされる。接触は最小限にしないといけない。当然、一緒にいる時間も短いほうがいいのである。 リトミネンコは、そのレポートを大事そうに抱えて、足早に近くのバーに入った。現在のロシアでは、バーといっても、単純に酒屋が店内で酒を飲めるようにしてある店、という程度のものである。 しかし、娯楽の少ないロシアでは、時間に関係なく人が多く詰め掛けており、安全という意味では一番の場所でもあった。 そんなバーの一番角のカウンターに腰をかけて、リトミネンコは、ウォッカを注文すると、一気にレポートに目を通し始めた。 そこには、驚くべき文面と人物の名前が羅列されていた。 発端はゴルバチョフ元大統領が始めた、民主制の導入である。そこからはじまった社会主義の甘い汁を吸っていた官僚とそれに支えられてきた政治家がいかにゴルバチョフと対立し、いかにこれをけん制しあってきたか、という歴史の教科書のガイダンスかジャーナリストの記事を読んでいるようである。
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