第一章 変死

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厳格で理性的な人間性で知られるリトミネンコ少将は、ロシア産のまずいウォッカを口に含みながら、いつもの彼に似合わない軽口をたたいた。 「まるで君の声が天使のささやきに聞こえるよ。」 司令部で通信を担当しているミーシャは、リトミネンコのKGB時代の同僚で、いくつかの命がけのミッションを共にこなした盟友でもある。彼女も商売柄決して明るいほうではないのだが、今日はリトミネンコ以上に明るい口調であった。 ミーシャは、ソビエト時代ではめずらしかった、女性の将校である。言葉遣いは軍の中にあってどうしても男性的であるが、KGB時代には、その女性としての魅力で数多くの西側のスパイを陥れてきた、美女である。
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