渦男《うずおとこ》

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「はいは~い! なんか楽しそうだし、立候補しま~す」 「うおおっ!? いつの間に背後にっ?」 横に身を引きながら頃川に出現時刻を訪ねる。 頃川は喜色満面だった。なにがそんなに楽しいのか分からない。 俺はあまり想像力豊かな方じゃないと自負してるし、無理からぬことだ。 「今現れたばかりです――と、入部は認めてくれますか?」 「そりゃもちろん」 これで三人だ。 「と言うわけで君、残り二人だ。入らないか?」 クルリと振り返り、カップルの片割れに問いを出す。 「めんどいんで、パスするっス」 そうとんとん拍子に進まないか。 「まぁいつでも歓迎してやるから」 「とりあえず雄介は今占ってもらって」 「あー分かったよ。うるせーな」 倦怠感バリバリながら、男子生徒は渋々列に加わった。 それから程なくして、勲の前に腰を落ち着ける。 勲のテンプレな台詞を受けて、男子生徒が回答した。 「柳雄介、A型。趣味はスポーツ全般で」 スポーツ全般ね。どうりでガタイが良いわけだ。 俺も人並みには鍛えてるが、この下級生と腕相撲して勝てる気がしない。 「で。恋愛についてでお願いします!」 間髪入れずに背後の女子が口を挟む。 「待て、俺の選択権を奪うな!」 「そんなのゴミ箱にでも丸めて捨てて。 じゃ、先輩お願いしますね」 「柳くん。恋愛でもなんでも君の場合そう変わらないから。これは総合運として聞いてね」 と前振りしてから勲は起爆剤を投げ込んだ。 「君は今年失うものが大きいね。まるで渦に巻き込まれるように――それからは逃れられない。 運気としては最高潮」 「最高潮!? どこをとったらそうなるんスか?」 あ、パニクった。 「だから最高潮でも災難からは逃れられないってこと、厄年だね」 勲の断言、いや――断言してるのがすごいが、とにかくそれがハンマーのように柳の心を砕いた。 しばらく柳は苦い顔をしていたが、急に悟りを開いた態度をとった。 「へっ。どうせ遊びの占いだろ? 真に受ける必要はないぜ。 んじゃ先輩方、俺はこれで」 柳が退室の意を伝え、その後を女子生徒が追っていった。 真に受ける必要はない――か。確かにそうなんだけど。 勲がため口で占ったのはお前だけだよ、柳。 これは勘だけど。今日一番的中率が高かったのは、今の占いだろう。 夕日もそろそろ店仕舞いを宣言し、地平線に吸い込まれた。 教室には三人が佇むだけとなった。
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