命令と彼女

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『ピピピピピ、ピピピピピ』 夜、携帯電話が鳴り響いた。夢から引っ張り出された俺はやや不機嫌に体を起こす。 この味気ない着信音ですぐに相手が分かった。 「はい」 『テニスに使う玉は?』 「ボーリング玉」 『成島に代わります』 一見すると頭の悪い会話を終える。いや、ちゃんと意味あるからね? よく分からない相手に弁明している間に、上司が電話に出た。 『おお、俊也(としや)。春休みで暇だろう』 「まぁそこそこは。用件は何ですか?」 成島さんは話を脱線させるクセを持っているので、こちらから切り出した。 『少し待て、通信が傍受されていないかチェックしてるところだ。 というわけでくだらない話に付き合え、お前彼女はいないのか?』 ……。 「くだらない、って前振りされたらどう答えても負けた気がするのでパスで」 『そうか、そりゃ満足だ』 「『残念だ』の間違いです!」 『報告書に彼女が出来ました~、って載ってなかったからつい』 報告書にそんな記載する人はいないと信じたい。 『うん? チェックが終わったな。 では本題に入ろう』 緩んでいた気を張り直す。 「明日から学校ってことに関係するんですか?」 今日連絡してきたことを考えるとそれが自然だ。 『良く分かったな。その通りだ。 お前にはある少女の調査を命じる。 具体的には過去の経歴を初め家族構成などを洗い出せ』 「その人物は新入生ですか?」 明日あるのは入学式。それに関連するなら新しく来る人間だろう。 『ああ。名前は頃川晶(ころかわ あきら)。 やや小柄な女性だ』 ……あきらね。へぇ。 『分かってると思うが…』 「命令の出所は探るな。ですよね。分かってますよ」 だって耳タコだし。 『重要度はEだか、いずれも大切な任務だ』 「了解」 これで終わりかと思ったが、まだ続きがあるようだ。 成島さんの雰囲気が変わった気がした。 『まぁ肩肘張らずに頑張ることだ。それでもお前ならできる。 あともう一つ、個人的な意見だが――』 「はい?」 『任務ばかりじゃなく、彼女でも作って学校も楽しめ。 高校生活最後の年だからな』 それきり俺の返事も待たずに電話が切れた。 部屋に静寂が訪れる。 「だから、彼女の有無関係ないじゃん。スパイが恋愛なんてちゃんちゃらおかしい。 ……それにしても最後の年、か」 明日に備えて、早めに寝ることにした。
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