僕が僕である為の方法

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とりあえず、フルートを専用の箱に仕舞うと、二人の男の前に向き直る。 「名前は?」 「秋雨有蓮(アキサメ ユウレン)。」 「そうか。秋雨アヤメと同じ苗字だね。」 秋雨アヤメ(アキサメ アヤメ)。 天才ピアニストであり、ボクの姉の名前だ。 「緒方くんっ!」 「しかしだね、校長。私は秋雨くんの音を気に入ってしまったんだ。この子は、誰よりも才能のある子だ。」 そっと壊れ物を触るように、ボクの頭に大きな男の人の手が乗っかかる。 温かいそれは、初めてされた行為だった。 両親の愛情は姉、アヤメに偏っていた。それは周りの人間も例外じゃない。美人で賢い、そしてピアニストとして中学の時から名を世界に馳せていた姉を持っていた為か、ボクをボクとして見てくれる人は、居なかった。 「フルート以外にも何か弾けるね?言ってごらん。」 校長を無視してボクの視線に合わせる男の人はボクにしか興味を持っていないように見えた。 「ピアノ、バイオリン、ハープ、それから、チェロに、ホルン。トランペット、トロンボーンとか。」 指折り言っていくが、思い付くものが限られてきた。
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