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さよなら
それから、十一年の月日が流れた。
まり子は三十七才、りゅうは18才の青年、俺は四十七才の、おじさんになっていた。
まり子は、九十九里から、帰って二年後夜の店を始め、この街の、酒と、女好きの男で「MIKA」という、まり子の店を知らない奴はいない。
長年の無理がたたり、俺は病床にいる。
言葉を、しゃべるのも、精一杯だった俺は、最後に、まり子に言った。
「なぁ、まり子、ブランデーを一杯くれないか。」
さよならを、覚悟していた。
まり子は、静かに、うなずくと、二つのブランデーグラスに、ヘネシーを、そそいでくれた。
初めて会った、あの夜が、走馬灯のように、頭をかけめぐる。あの夜と同じ乾杯をした。
「まり子、ありがとう」
まり子の目を見詰めながら、俺は、この世を去った。
まり子の涙が、ヘネシーを割る。振るえる手の、ブランデーグラスが、ゆれている。
あきらのブランデーは、もう二度と、ゆれる事は、無かった。
まり子は、それ以来、ブランデーを口にする事は、なかった。
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