7人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
雲を裂いて、光が降り注ぐ。
雨上がりの、涼しげな風がカーテンを翻した。事あるごとに顔に覆いかぶさるそれを手で抑える。午後の科学室で、一人。紙パックのコーヒー片手に雲の裂け目を覗いていた。
校舎の影たまりを泳ぐ紫陽花がみずみずしい。日陰に咲く花。自分勝手だが、少し惨めに見える。陽光が当たれば、もっと輝けるのに、と思いながら甘ったるいストローを噛んだ。
そんな優雅な午後。
こんな時は昼寝か読書にでも洒落込みたい。そう、ポール・オースター。雨上がりの憂鬱な午後にこそ、あの文章は相応しい。ついでにジャズもあれば最高なのたが……。否、このまま何もしないで、ぼんやりと風に吹かれているのもいいかな。
ふわりと伸びをする。
その時、せわしく廊下を走る足音が聞こえた。それは段々と私のいる科学室へと近付いて来る。嫌な予感が脳裏を過ぎった刹那、ガタンと勢いよく教室のドアが開いた。
「斉藤! 事件だ!」
開口一番。意味不明。
的中した。
陽光も浴びていないのに、彼女の目は気色悪いくらい凛と輝いている。いつものことながら、こういう時は本当にロクなことがない。
「四ツ葉デパートの飛び降り、どうも自殺じゃないらしい。いくぞ!」
「は?」
「いーからいくぞ!」
カツカツカツ……、と靴音高らかに歩み寄ってきて、彼女は私の腕を掴んで引っ張る。まるで強制連行されている気分だ。
実に理不尽。
「何で?」
「助手の君がいてこそ私は事件を解決できるのだよ、ワトソン君」
「いや、私、斉藤だから。あんた、ホームズじゃないから」
「いーからいく!」
こうして私は事件に巻き込まれていく。いつものことだ。しかしながら、コナン・ドイルはロクでもないキャラクターを生み出してくれたものだ。もし、彼が生きていたら文句の一つでも言ってやりたい。
最初のコメントを投稿しよう!