Bad Day

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 雲を裂いて、光が降り注ぐ。  雨上がりの、涼しげな風がカーテンを翻した。事あるごとに顔に覆いかぶさるそれを手で抑える。午後の科学室で、一人。紙パックのコーヒー片手に雲の裂け目を覗いていた。  校舎の影たまりを泳ぐ紫陽花がみずみずしい。日陰に咲く花。自分勝手だが、少し惨めに見える。陽光が当たれば、もっと輝けるのに、と思いながら甘ったるいストローを噛んだ。  そんな優雅な午後。  こんな時は昼寝か読書にでも洒落込みたい。そう、ポール・オースター。雨上がりの憂鬱な午後にこそ、あの文章は相応しい。ついでにジャズもあれば最高なのたが……。否、このまま何もしないで、ぼんやりと風に吹かれているのもいいかな。  ふわりと伸びをする。  その時、せわしく廊下を走る足音が聞こえた。それは段々と私のいる科学室へと近付いて来る。嫌な予感が脳裏を過ぎった刹那、ガタンと勢いよく教室のドアが開いた。 「斉藤! 事件だ!」  開口一番。意味不明。  的中した。  陽光も浴びていないのに、彼女の目は気色悪いくらい凛と輝いている。いつものことながら、こういう時は本当にロクなことがない。 「四ツ葉デパートの飛び降り、どうも自殺じゃないらしい。いくぞ!」 「は?」 「いーからいくぞ!」  カツカツカツ……、と靴音高らかに歩み寄ってきて、彼女は私の腕を掴んで引っ張る。まるで強制連行されている気分だ。  実に理不尽。 「何で?」 「助手の君がいてこそ私は事件を解決できるのだよ、ワトソン君」 「いや、私、斉藤だから。あんた、ホームズじゃないから」 「いーからいく!」  こうして私は事件に巻き込まれていく。いつものことだ。しかしながら、コナン・ドイルはロクでもないキャラクターを生み出してくれたものだ。もし、彼が生きていたら文句の一つでも言ってやりたい。
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