Strawberry ice

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 じりじりと照りつける太陽を恨めしく睨んだ。  春には賑やかな花吹雪を散らす並木道。今は青い葉を纏った桜が両脇に並ぶ下り坂。私たちの通う学舎はこの坂を上った先にある。前を行く間宮の後ろ髪が風に棚引いた。蒸し暑いスカートの裾が揺れる。  真夏。こんな日に外を歩いている私の不運さに、悲観的な溜め息が出た。 「間宮。四ツ葉デパートの飛び降りが自殺じゃないってどういうことなんだ?」 「そういうことだ」 「は?」 「あれは自殺じゃない。確かに死亡した葛原千夏は精神科への通院歴があったし、不安定になることも多かった。ついでに自殺未遂も繰り返していたらしい。だが、それは構ってほしかっただけとも思える。もし、彼女に自殺するつもりがなかったとしたら、誰かが突き落としたとも考えられるじゃないか?」 「事故かもしれないだろ」 「それはない」  トン、と間宮は縁石に跳び乗った。  ふわふわと腕を伸ばしてバランスを取りながら、ふわりと私の方へと振り向いた。 「転落防止用の柵が取り付けられた屋上から高校生が落ちるなんて馬鹿げてる。柵を乗り越えて自殺ごっこでもしていたなら別だけどな」 「してたんじゃないのか? そういうのが趣味だったんだろ」 「誰もいない屋上で、か? そういう趣味だったとしても、それは滑稽だな。誰かに突き落とされたと考える方が妥当だろう?」 「そうか……」  いつの間にか事件のことを真剣に考えていた。まんまと間宮に捕まってしまったようだ。  再び、悲観的な溜め息をつく。  くるり、と彼女は向きを変える。その向こうに、飛行機雲が窺えた。お、と間宮が声をあげる。どうやら、彼女もそれに気がついたようだった。足を止め、空を見上げている。否、見つめていると言った方が正しいかもしれない。彼女にも自然に対するそう言った感受性があるのだな、と感心した。 「なあ、斎藤」 「何だ?」 「ちょっと、アイス買っていかないか?」  ビシッと彼女は飛行機雲の手間にあるコンビニの看板を指差した。思わす、溜め息をついてしまった。こういうところが彼女らしさでもあるとも言えるのだが……。間宮京子。彼女はいつも私の期待を裏切る。良い意味でも、悪い意味でも。  消えかかる飛行機雲を横目に私たちは束の間の涼を求めた。
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