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「見る人次第?」
「そ。俺は自分のこと自分で悪だと思うし?お前も俺のこと悪いやつだって思ってんだろ?」
「もちろんだ!」
こんなこそ泥がいいやつなわけあるか。冗談じゃない。
「だけど街のやつらはそうは思わない。俺はおごりたかぶる金持ち連中から金品盗んでばら撒く英雄だ。で、俺はそれを利用して上手く逃げ続けているわけだ。結局は、善悪の判断に絶対のものなんかないってこったな」
「そんなことが許されるわけがない。泥棒は悪だ」
僕はきっぱりと言ってやった。
こいつは俺のことを上手く言いくるめようとしているんじゃないか。だとしたらそんな口車にのってやるものか。
こいつは誰が何と言おうと悪だ。
「ま、そうやってきっぱり言い切れるうちはまだまだ純粋なガキ、ってことだな。世の中を知らなさ過ぎるんだよ」
キースはおもむろにベッドから立ち上がると、いじくっていた指輪をこちらへ投げてよこした。
僕はいきなりのことに驚きつつもしっかりキャッチする。
「その指輪は返してやる。リングの裏に名前が彫ってあって価値が下がるからな。他にも金目のものはいくつかいただいてるからそれはおまけだ。ママによろしくな。あ、あとマイクとウィルにもな」
「なに?」
キースがさりげなく口にした名前に僕は目を丸くした。
マイクとウィルだって?なぜこいつがあいつらのことを知っているんだ。
「お前、マイクとウィルを知っているのか?」
「そりゃな。あれだけ定食屋で大声で話してりゃ店内丸聞こえだって」
「お前まさかっ!」
昼間定食屋にいたというのか…!?
「ははっ。面白いガキだと思って盗みついでに寄ってみたんだが、いい時間を過ごさせてもらったぜ。……そうだな、また5年後か10年後ぐらいに来るからよ。そのときにもお前が俺のこと悪だって言い切れるかどうか、楽しみにしてるぜ。だからそれまで俺が捕まって処刑されるなんてことがないように、今日のことは他言無用で頼むぜリック」
そう言ってキースは窓を開け、寸分の迷いもなく飛び降りて部屋から姿を消した。
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