昭如(アキユキ)

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その時。 ふと背後で土を踏み締める音が…。 町からかなり離れた山奥のこの場所に、訪れる者はほとんどいない。 動物? いや、今のは間違いなく。 足音! 昭如は素早く茗を抱きしめた。 自分の体で茗を隠すように。 心臓が早くなる。 渡さない。 渡したくない。 ずっとこの手で抱いていたい。 僕から茗を取り上げないで!! ギュッと目を閉じて、昭如は心の中で叫ぶ。 声にならない声。 なのに…。 強く抱きしめられて、苦しいのか。 茗がモゾモゾと動き。 昭如の肩越しに顔を出した。 「茗っ、駄目…っ」 「りぃちぃーっ!」 止めようとして、茗の頭を押さえようとした時。 茗が叫んだ名前に腕が緩んだ。 途端に茗は昭如の腕をくぐり、抜け出して。 そしてすぐに賑やかなはしゃぎ声に。 その声を聞いて、全身から張り詰めた力が抜けて。 昭如は、その場にヘタリ込んだ。 大丈夫。間違いない。 ゆっくりと振り返る。 傾きかけた日を背中に受けて近づいてくる影。
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