血塗られたプロローグ

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  「なんで……! なんでこんなことになっちゃうんだよ!」 身体中を拘束され、血まみれのまま泣いている少女を前に、少年はただただ泣き叫ぶほか無かった。 「〝兎小屋〟から脱走した二体のクニークノイドの内、一体を捕縛。ただいまより処分致します」 少女を拘束している警備員が、どこかへと通信を送る。 ――処分。この言葉の重みが、少年の心を押しつぶした。 「……しゅー兄ちゃん。私、殺されちゃうの?」 幼い少女の悲痛な言葉に、なにも答えられない。 「やだ……やだよ! 死にたくないよ! 私、ただみんなと一緒にいたかっただけなのに! 私だって、しゅー兄ちゃんやおじーちゃんと同じ、普通の人間になりたかったのに……! それだけなのに……」 「しろ……! しろぉ……」 泣きじゃくる少女の頭を撫でようと、少年が手を伸ばす。 しかしその手は、警備員によって乱暴に弾かれた。 「なんだよ……! なんだよ! 頭くらい撫でさせてくれてもいいじゃないかよ! お前らがじいちゃんを自殺に追い込んだんだろ! この子にはもう僕しかいないんだよ! 僕しか……僕しか!」 「しゅー兄ちゃん! しゅー兄ちゃん!」 泣き叫ぶ少女の華奢な身体に、鈍色の槍が突き立てられる。 心臓を、頭を、喉元を、およそ考えられる人体急所の全てを、冷たい槍が刺し貫いていく。 「しろ、しろおおお!」 もう返事をすることもできない亡骸に向け、少年が叫ぶ。 守ってあげるつもりだったのに、それすらできなかった。 泣きながら崩れ落ちる少年は、ただ唇を噛み締めて、心の中で誓いをたてていた。 ――こんなセカイは、俺が変えてやる。
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