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振り向くと、そこには8歳ぐらいの色白の男の子がたっていた。
女が
「うん、そうなんだけど、場所がわからなくて……」
と言うと、男の子は
「僕、知ってるよ!こっちだよこっち」
と言って、女の手を取り迷路のような構内を走り始めた。
心身ともに疲れきっていた女は、その子供に引かれるまま、その後を着いていった。
そして、女はあのコインロッカーの前に辿り着いた。
そう、そこは確かにあの時のコインロッカーだった……
女は、安堵感から「フー」と一息ついた後、男の子に「ありがとう」と礼を言った。
男の子は、ニコリともせず、ジーッっと女の顔を見ていた。
その時になって初めて女は、いくつかの不審点に気がついた。
この男の子は、どうして1人なのだろう?
なんで、こんな迷路のような駅の構内を熟知しているのだろう?
そして、どうしてこの子は私がコインロッカーを捜していることがわかったのだろう?
女は、恐る恐るその子にきいてみた。
「僕、1人みたいだけど、ママとかは一緒じゃないの?」
すると男の子は、ようやく女から視線を外してうつむき、小さな声で、
「ママは……ママは……ママは……」
と呪文のように唱えた後、再び女の方を向き、
「ママはお前だぁ~!!」
と叫んだのであった。
そして翌日、無理矢理ロッカーに詰め込まれた女の死体が発見された。
そのロッカーの前には、女を供養するかのように「花」が添えられていた。
その花が、女自身が持参したものであることは、誰も知らない……
END
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