†第一章†

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目撃者 ある田舎町のはずれにオンボロの一軒家がありました。 その家の前にはみすぼらしい浮浪者がおり、その周辺の雰囲気に馴染んで生活していた。 彼はそこですべてを目撃していた。 ある夏の夜のこと、一人のお坊さんがそこのボロ屋を尋ねた。 「すみません、旅の途中寝床に困ってしまったんです、一晩宿をとらせてはくれませんか?」 家の主人は嫌々な口調で 「あいにく家は狭いし汚い、あんたを泊めてやる余裕なんてないんだよ」 と追い返そうとした。 だが、坊さんが 「礼ならいくらでもします」 と言って胸元の札束をちらつかせた。 すると主人が打って変わったように 「いやこれは失礼した!どうぞどうぞ!汚い家ですが泊まっていってください」 と言って坊さんを家に入れた。 ところが、それっきり坊さんはその家から出て来ず、出てくるところを見た者はいなかった。 数日後、浮浪者がゴミを物色していると、隣のボロ屋の庭から声が聞こえてきた。 隙間から覗くと庭で主人のその息子が生きた鯛を買ってきたらしく、その新鮮な身に包丁を入れるところだった。 なぜこんなボロ屋に住んでる奴が、あんな新鮮な鯛を。 悔しさと羨ましさとの気持ちでその様子をみていた。 鯛の身に包丁がざっくりと入り、鯛から血が流れた。 それを見た息子はこう言った。 「お父さん、坊主を刺したときにそっくりだね」 その言葉を聞き、浮浪者はすぐに逃げ出した。          END
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