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「勝手に……殺されては、困るな」
「何……ッ!?」
死んだと思った彼女の声に、慌てて手元へ視線を下げる。視界に飛び込んできた光景に、彼は驚きのあまり大きく眼を見開く。彼が目にしたモノとは、羽織を切り裂いた剣先を止める打ち刀の鞘だった。
なぜだ? と言いたげな表情を浮かべるヴァイナモに、
「残念だったな、ヴァイナモ殿?」
震える声で奏は囁く。そして、ゆっくりと顔を上げる。
いくら防いで斬られていないにしても、その衝撃はしっかりと伝わっていた。その証拠に彼女は、熱く焼けるような激痛で顔を引き吊らせている。だが、どこか余裕のある笑みを浮かべていた。
すると、未だに状況を理解していないヴァイナモ目掛けて、一直線に必殺の太刀を振り下ろした。先の連撃のように剣で防ごうにも、混乱で鈍った反射では遅すぎる。今度こそ、捉えたと奏は思った。しかし、聞こえたのは虚しい風斬り音と金属音だった。
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