プロローグ『日常的な非日常』

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 商業都市バン・フィの北地区に位置する夜の歓楽街。  中央時計塔を中心にして北西を走るサブ・ストリート沿い。その北寄り2ブロック一帯には、酒場や娼婦館が軒を連ねている。それぞれの軒先でウェイターや娼婦らが、目移りしている旅人や商人たちの気を引こうと、呼び込みや色気を振り撒いていた。  何とも盛況で大人たちの憩いの場となっている。  だが、この日は少しばかり違った。  突如、遊びに来ていた観光客の波が、道の真ん中で大きく左右に分かれた。  急に路上パフォーマンスでも始まったのかと言えばそうではない。  開けた場所へ向けられていた視線は、嬉々としたモノではなく、どこか怯えた色をしている。  そうして、皆の視線が交錯し集中する先には、一定の距離を保って対峙する者たちの姿があった。 「寄るなぁ!? それ以上、寄るんじゃねぇ!!」  すると、その片方である北側を背にして、ジーンズにボロボロのシャツを着た男が叫びながら、唯一の武器である右手のナイフを威嚇するように振り回す。そして、それに合わせて周囲から恐怖の悲鳴が沸き広がる。  壁のように立ちはだかる周りを気にしながら、どうしてこうなるんだと中心にいる彼は自問した。  ――が、それを妨げる様に、
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