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「いい加減、大人しく投降したらどうだ?」
犯罪者にとって、聞き飽きたような文句を飽きもせず、変な恰好をした――中袖の羽織袴姿で左腰に同じような長さの刀を二振り差した女が呼び掛けてくる。
そうだ。コイツの所為だ。
改めて、彼は思った。
コイツと出会った場所は、裕福な奴らが住んでいる西地区の高級住宅街。
ブラブラと今夜の獲物を探していたら、いきなり背後から声を掛けられた。何だと思って振り返るなり、コイツが捕まえようとしてきたのだ。
その手を逃れた俺はサブ・ストリートに沿って、北地区の外れにある無法地区に向かって走った。
たかが相手は女一人。逃げ切れる自信はあった。
何せ、今まで二桁以上の犯罪を犯して逃げてきたのだ。だから、今回も大丈夫と。思っていた。
……それなのに今夜は、先に体力が尽きたのは自分の方だった。
こうした経緯で、今の状況である。
「ほら、武器を捨てろ。悪いようにはしない」
何もしないと言いたげに彼女は手を差し伸べるが、
「うるせぇ!! コイツがどうなってもいいのか!?」
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