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「うん……」
セリムは照れくさそうにはにかんだ。
「もう、行っちゃうの?」
家の前で、二人は向かい合う。
「うん、僕はどうやら好かれる人間じゃないみたいだ」
「そんなことないよ!お兄さんは僕を守ってくれた!!」
「……………………」
「みんなはクロネコだから悪い奴みたいに言うけど……お兄さんは悪い人なんかじゃないよ!!」
「セリム……」
「僕は……お兄さんみたいになりたい。誰かを守れる、強い人になりたい!!」
セリムの瞳はただ純粋で、少年は思わず微笑んだ。
「なれるよ。君なら、きっと……」
少年はしゃがみ、セリムと目線を合わせる。
「だから、その気持ちを忘れてはいけない。君は、只真っ直ぐに生きるんだよ」
セリムは無言で頷いた。
少年は嬉しそうに頭を撫で、立ち上がった。
「さ、もうおやすみ」
「うん……」
「また、会おう」
「うん!」
セリムは窓から少年の姿を見続けていた。
深い闇に、その姿が消えるまで。
ずっと、ずっと……。
「お兄さん……僕も、クロネコになるよ」
立派な、クロネコに……。
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