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緑葉
冷たい木枯らしが吹き付ける。真っ赤なもみじが足元に落ちて来た。私はお気に入りのもみじ色のコートの襟に顔をうずめる。
寒いのは風のせいではないようだ。
――楓といてもつまんないよ。
足元のもみじを枯木色のブーツでくしゃりくしゃりと踏んで歩く。所詮こんなもんなんだと苦笑い。
眼鏡をコンタクトに、黒髪を茶髪に、ファッションを変えてもすぐにこんなだ。
休日の公園には沢山の笑い声が溢れている。二人の時には気付かない騒がしさ。騒がしい賑やかな場所にひとりぼっちの淋しさ……。忘れたくてイヤホンを耳に押し込む。
っ!
強い風が砂埃を巻き上げて襲って来た。ボロボロ涙が零れて止まらない。ああ、我慢してたのに……。
灰色空を見上げてまばたきを繰り返すと涙はどうにか収まる。
足元を見ようと頭を揺らすと、赤茶色の世界に緑色を見つけて視線がくぎづけにされる。
周りが真っ赤に紅葉している中で一本だけ緑葉をたずさえるもみじの木。
それがあまりにも季節に不釣り合いでどこかの誰かさんに似てるね。
独りで淋しくない?
そうでもないよ。仲間もいないわけじゃないから。
よく見るとそんな緑の木は何本かある。そして同時に気付く、私と同じような淋しい人が公園にはぽつりぽつりといることに。
なんだ、私ってひとりぼっちじゃなかったのかもね。
私は私と同じ名前の木にお礼を言ってイヤホンを外した。
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